鉄筋コンクリートの腐食を語る際には、「マクロセル腐食」と「ミクロセル腐食」の違いについて理解しておかなければなりません。
マクロとミクロの違いですが、実構造物中で問題になる度合いが全く異なります。
マクロセル腐食とは何なのか?ミクロセル腐食とは何なのか?どう違って何が原因なのか?など、今回はその違いや特徴について考えていきたいと思います。
鉄筋腐食のメカニズム
そもそも鉄筋腐食はどういうメカニズムで発生するのでしょうか?
鉄筋腐食は水と酸素によって生じます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
鉄筋腐食は、それぞれ以下のようなアノード反応とカソード反応が発生することにより生じると考えられています。
アノード反応:Fe → Fe2+ + 2 e−
カソード反応:H2O + 1/2 O2 + 2e− → 2 OH−
これらの反応はマクロセル腐食の場合もミクロセル腐食の場合も同じです。
では、それぞれの特徴と原因、違いについて説明していきます。
マクロセル腐食
実構造物において多くの場合鉄筋腐食として問題になるのがマクロセル腐食です。
これは、マクロセル腐食とミクロセル腐食を比較すると、マクロセル腐食の方が腐食スピードが圧倒的に早いことが原因です。
マクロセル腐食は、鉄筋腐食部と健全な鉄筋、コンクリート(細孔溶液)で比較的大きな回路(マクロセル)が作られ、その中で電子のやり取りが行われることによって発生します。
マクロセルが作られると、鉄筋腐食がどんどん進行していき、局所的に腐食生成物ができていってしまいます。
マクロセル腐食が発生する原因はいくつかあります。
まず、ひび割れ等の発生により、水や空気など腐食の原因となるものが局所的に鉄筋に振れやすい環境になることです。
これにより、鉄筋の腐食しやすい部分がアノード部、健全な部分がカソード部となって腐食電流(カソード(陽極)→アノード(陰極))が発生し、アノード部で腐食生成物が発生します。
塩化物イオンが局所的に浸透している状況でも同様です。塩化物イオン濃度が高いと不動態皮膜が消失しやすいため、かぶりの塩化物イオン濃度が高い部分の鉄筋がアノード部、低い部分の鉄筋がカソード部となって腐食が発生します。
また、コンクリートの剥落などよって鉄筋が露出した場合の断面修復の際も注意が必要です。
断面修復した際は、もともと劣化が進行していた修復部分に新しいコンクリートが来るため、修復部分が腐食しにくく、その周りの部分が相対的に腐食しやすい環境となってしまいます。
その結果、下図のように断面修復の境界部で腐食が発生する可能性が高まります。
ミクロセル腐食
ミクロセル腐食は鉄筋の表面に小さな回路(ミクロセル)が一様に発生し、ゆっくりとした速度で腐食が進行していく現象です。
マクロセル腐食と比べると腐食速度が小さいため、あまり実構造物で問題となることはありません。
よく、耐候性鋼や不動態皮膜との関連性がわからない、と言った話も聞きますが、これらは別物という風に考えましょう。
耐候性鋼は鉄以外の金属も用いて一様な錆を生じさせてできるものですし、不動態皮膜はコンクリートのアルカリ性によってできる緻密な酸化膜であり、ミクロセル腐食のように時間をかけてできていく鉄の腐食とは異なります。
まとめ
マクロセル腐食とミクロセル腐食についてご理解いただけましたか?
- 実構造物で問題となるのはマクロセル腐食
- ひび割れ発生時や塩害、断面修復を行った際はマクロセル腐食に注意
- ミクロセル腐食は問題になることは少ない
- 耐候性鋼や不動態皮膜とミクロセル腐食は別物
鉄筋腐食は電子の移動がどこで発生するかに大きく影響を受けます。以上のことを理解して、腐食のリスクを頭に入れながら日ごろの業務に活かしてください。