コンクリートの複合劣化-注意すべき劣化機構の組み合わせ

鉄筋コンクリートは塩化物イオンやアルカリ反応性骨材等によって劣化の進行が早まることが知られています。

その劣化機構のうち代表的なものは以下の通りです。

・鉄筋腐食先行
塩害、中性化
・コンクリートの劣化先行
アルカリ骨材反応、凍害、疲労、化学的浸食

劣化機構については以下の記事にまとめています。

コンクリート構造物の建設段階、維持管理段階どちらでも必要となる劣化機構に関する知識。主たるコンクリートの劣化現象についてまとめました。

ただ、これらの劣化現象はいつも単独で発生するわけではありません。同時に発生したり、ある劣化現象がもうひとつの劣化現象を引き起こす複合劣化が発生している場合もあります。

むしろ、単独の劣化現象よりも複合劣化が発生している場合の方が多いのかもしれません。

複合劣化の中には、一方の劣化が進行することによってもう一方の劣化進行を促進するようなものも含まれています。

本記事では、そんな複合劣化の中でも一方の劣化進行がもう一方の劣化進行に影響する例について考えていきたいと思います。

ひび割れと鉄筋腐食

まず、ひび割れと鉄筋腐食について簡単に触れたいと思います。

コンクリートにひび割れを生じると、ひび割れから劣化因子が侵入しやすくなるため、鉄筋腐食が促進されます。

また、鉄筋腐食が生じることによって腐食ひび割れが発生し、更に鉄筋腐食が加速することも考えられます。

そのため、コンクリートの劣化が先行する劣化機構では、鉄筋の腐食を促進する場合が多くあります。例えば、疲労によってコンクリート表面にひび割れが生じ、そのひび割れから塩化物イオンが侵入することによって塩害が促進される、などです。

このひび割れ→鉄筋腐食は複合劣化のメカニズムで一般的に発生するものなので本記事では特に触れませんが、ひび割れが発生することによって鉄筋腐食を促進し、鉄筋腐食が生じると腐食ひび割れにつながるという悪循環が起こることは理解しておきましょう。

劣化を促進する組み合わせ

劣化機構の中には、2つの要素が組み合わさることによってお互いの進行を促進してしまうような組み合わせがあります。

ひとつの劣化現象に目を奪われていると、同時に起きている他の劣化現象を見逃す可能性もあるので、劣化が促進してしまう組み合わせをしっかり頭に入れておきましょう。

今回着目するのは、塩害中性化アルカリ骨材反応の組み合わせです。

塩害と中性化

塩害と中性化は同時に発生すると劣化の進行が早まる代表的な例と言えます。

塩化物イオンはコンクリート硬化体の中に固定化されている塩化物イオンフリーデル氏塩と、細孔溶液中に溶けて容易に移動する塩化物イオンの2種類あります。

フリーデル氏塩は固定化されているので塩害を引き起こす直接的な原因にはなりませんが、細孔溶液中の塩化物イオンは、濃度勾配に応じて容易に移動するため、コンクリート内部まで浸透し、鉄筋腐食を引き起こします。

しかし、中性化が生じると、中性化領域では細孔溶液中のCO2の影響によりフリーデル氏塩が細孔溶液中に溶け出し、細孔溶液中の塩化物イオン濃度が高くなるという現象が発生します。

この現象は塩化物イオンの濃縮と呼ばれています。

中性化が生じると、細孔溶液中に塩化物イオンが溶けやすい環境が整い、中性化領域の細孔溶液中の塩化物イオンは中性化深さ先端に濃度勾配に従って移動していきます。

そのため、塩化物イオンの濃縮が起きたときには、中性化深さ先端の塩化物イオン濃度が高くなります。

塩害の補修工法として挙げられる電気化学的脱塩工法では、塩化物イオンを浅い位置に移動させることができると同時に、内部コンクリートの再アルカリ化も同時に可能であるため、塩害と中性化の複合劣化には有効であると考えられます。

アルカリ骨材反応と塩害

次に、アルカリ骨材反応と塩害の複合劣化です。

劣化メカニズムは、アルカリ骨材反応により発生するひび割れから塩化物イオンの侵入が促進されて、鉄筋腐食が早期に生じるというわかりやすいものですが、注意したいのはその補修方法についてです。

塩害の補修工法として知られている電気化学的脱塩工法では、前述のように内部にアルカリ金属イオンが集積されます。

アルカリシリカ反応が起きているコンクリート部材に電気化学的脱塩工法を用いると、反応性骨材とアルカリ金属イオンの反応が起きてアルカリシリカゲルの生成を助長するため、アルカリシリカ反応を促進してしまいます。

劣化を抑制する組み合わせ

中性化とアルカリ骨材反応

劣化をお互いに促進してしまう組み合わせもあれば、反対に、劣化を抑制するような組み合わせもあります。

その代表例が中性化とアルカリ骨材反応です。

アルカリ骨材反応は、反応性の骨材とアルカリ金属イオンが反応することによって生じた水膨脹性のゲルによって生じます。

しかし、中性化が進行している場合、反応性骨材と反応するアルカリ成分が少なくなるので、アルカリ骨材反応の進行が抑制されます。

さらに、中性化は乾燥している部分で進行しやすいのに対して、アルカリ骨材反応は水分によりゲルの膨張が発生するため、コンクリート部材の周辺環境的にも同時には進行しにくいことが知られています。

これらのことから、実構造物でこの2つの複合劣化が問題になることはあまりありません。

まとめ

コンクリート構造物の複合劣化について解説してきました。

  • 塩害と中性化
    :塩化物イオンの濃縮による塩害の促進
  • アルカリ骨材反応と塩害
    :電気化学的脱塩工法によりアルカリ骨材反応を促進
  • 中性化とアルカリ骨材反応
    :中性化により反応性骨材の反応を抑制

注意すべき組み合わせがあったり、補修工法の判断を変える必要が生じる可能性があるため、コンクリート構造物にどのような劣化現象が起きているかしっかりと診断していく必要がありますね。

それぞれの劣化機構について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

塩分によりコンクリート構造物がダメージを受ける塩害。日本でも発生事例の多い劣化現象なので、その原因やメカニズム、対策等について理解しておきましょう。
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コンクリート構造物の建設段階、維持管理段階どちらでも必要となる劣化機構に関する知識。主たるコンクリートの劣化現象についてまとめました。
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