コンクリートの劣化機構に「中性化」と呼ばれるものがあります。
元々アルカリ性であるはずのコンクリートが中性に近付くことによって起きる劣化現象ですが、コンクリートが中性に近付くことはなぜ問題なのでしょうか?
本記事では、中性化の原因やメカニズム、対策などについてまとめていきます。
原因
中性化の原因は、大気中の二酸化炭素(CO2)です。
大気中の二酸化炭素がコンクリート内部に浸入することによって、コンクリートが中性に近付いていきます。
劣化因子が二酸化炭素ですので、大気に触れるコンクリートは全て中性化の可能性があることになりますね。
メカニズム
では、コンクリートの中性化はどのように引き起こされるのでしょうか?
ご存知のようにコンクリートはアルカリ性で、pHが12~13程度あります。
コンクリート中の鉄筋は、このコンクリートの強アルカリ性によって不動態皮膜に覆われているため、腐食せずに安定した状態になっています。
このアルカリ性は、コンクリート中の水酸化カルシウムの存在によるものなのですが、コンクリート中に二酸化炭素が侵入しすることによって、以下の化学反応式のようにコンクリート中の水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化し、pHが10~11以下まで低下してしまいます。
Ca(OH)2 + H2CO3 → CaCO3 + 2H2O
中性化は、この現象を詳細に表現して「炭酸化」と呼ばれる場合もあります。
pHが11程度まで低下すると、不動態皮膜が破壊され、外部から侵入する水や酸素によって鉄筋腐食が発生します。
鉄筋腐食が発生すると、腐食部は膨張するため、それに伴ってコンクリートにひび割れが発生する等の劣化現象が見られるようになります。
特徴
中性化は大気に触れてさえいればどこでも発生する可能性があります。ですが、急激に進行はしないので、適切な対策を施せば中性化による劣化は防ぐことができると考えていいでしょう。
中性化が進行すると、鉄筋腐食が生じ、鉄筋に沿ったひび割れがコンクリート表面に発生します。
進行しやすい条件は、乾燥と高温です。雨水が当たらずコンクリート表面が年中乾燥している箇所や、火災等により温度が上がった部分については注意が必要でしょう。
その為、例えば建築物では、雨水が当たる外壁側よりも内側の方が中性化が進行しやすいと言われています。
中性化の発生例としては、自動車の排ガスの影響を受ける道路の高欄や、かぶり不足で出来上がってしまった部材などで早期に中性化による鉄筋腐食等が発生した事例があります。
試験方法
中性化がコンクリート表面からどの程度進行しているかを示す中性化深さを計測する方法に、フェノールフタレイン法があります。
コア採取したり、ドリルで小径の孔をあけたりしたコンクリートに対し、約1%のフェノールフタレイン溶液を噴霧します。
その昔理科で習ったように、フェノールフタレイン溶液は、アルカリ性なら赤紫色、中性、酸性なら無色になります。
そのため、フェノールフタレイン溶液をコンクリートに噴霧すると、中性化が進行している部分は無色、通常の部分は赤紫色に変化します。
この無色の部分のコンクリート表面からの深さを計測することによって、中性化深さを計測することができます。
抑制対策
中性化の抑制のためには、二酸化炭素を侵入させないことが一番です。そのために、水セメント比を小さくしてコンクリートをち密にしたり、合成樹脂やポリマーモルタルによって表面被覆をするなどの対策が考えられます。
また、塩害と同じように、かぶり厚さを大きくすることも有効です。
なお、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントは、ポゾラン反応によってアルカリ性を示す水酸化カルシウムを消費してしまい、中性化の進行を速めてしまう働きがあるので、乾燥・高温が懸念されるような箇所では使用しない方がいいでしょう。
補修
コンクリート表面のひび割れなどにより劣化が顕在化した場合、ひび割れ注入や断面修復などを行う必要があります。
また、鉄筋腐食が発生している場合には、電気防食工法が用いられる場合もあります。
それより程度が軽くても、中性化深さがある程度進行したら、鉄筋腐食が発生しないように再アルカリ化工法を行って補修されることがあります。
ひび割れ注入・断面修復
ひび割れ注入は、腐食ひび割れに対して、更なる劣化因子の侵入を防ぐために注入を行うものです。樹脂系の材料やウレタン系の材料がよく用いられます。
断面欠損が激しい場合、周辺のコンクリートを取り除き、断面修復材で埋めてしまう断面修復も行われることがあります。
電気防食工法
電気防食工法とは、コンクリート表面に設置した用電極から鉄筋に向けて電流を流すことにより鉄筋腐食の進行を防止する工法です。
鉄筋腐食が生じているとき、鉄筋腐食部と健全部には電位差が生じており、腐食部(電位高)から健全部(電位低)に電子が流れています。
すなわち、健全部⇒腐食部に電流が流れているということになります(電子の動く向きと電流の向きが逆であることに注意!)。
電気防食工法では、鉄筋側に電子を供給し、腐食部と健全部の電位差をなくすことにより、この電流の発生(=腐食の発生)を抑えることができます。
再アルカリ化工法
再アルカリ化工法とは、コンクリート表面に炭酸カリウムなどのアルカリ溶液と陽極を設置し、コンクリート内部の鉄筋に向かって電流を流すことによりアルカリ分を浸透させる工法です。
だいたい1~2週間程度電流を流し続けることによりアルカリ性が取り戻されると言われています。
この図を見ればわかりますが、塩害に対する補修工法である電気化学的脱塩工法と似た方法ですね。
一般的には再アルカリ化は2週間程度、脱塩工法は8週間程度の通電期間が必要となります。
その他のポイント
中性化速度
中性化深さがどのくらいの速さで進行するかを示す中性化速度ですが、経験則的な予測式が提案されています。
y = b√t
y:中性化深さ[mm]、b:中性化速度係数[mm/年]、t:時間[年]
この中性化深さの予測式はルートt則と呼ばれており、ばらつきは大いにあるものの、中性化深さは経過時間の平方根に比例するとされています。
bは構造物によって様々ですし、あくまでも経験則ですので、今後より精度の高い予測式が提案される可能性もあるでしょう。
まとめ
中性化について解説しました。
- 通常のコンクリートのpHが12~13なのに対して、中性化が生じると10~11まで低下する
- 中性化を促進させる要因は乾燥と高温
- 劣化が進行すると鉄筋に沿ったひび割れが生じる
- フェノールフタレインを用いて試験を行う
- 電気防食工法や再アルカリ化工法による補修が行われることもある
- 劣化の進行はルートt則による予測式が提案されている
中性化は大気と接すればどこでも発生する劣化現象です。
だからこそ、起こりやすい条件、起こりにくい条件を頭に入れ、劣化現象への適切な対処や対策を考えていかなければなりません。
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