土木は経験工学?若手技術者が学ぶべきこととは

土木に関わる方は、土木は経験工学だ!と一度は言われたことがあるんじゃないでしょうか?

私も、職場の先輩に経験に関する大切さを説かれることが多く、業界にもそう思っている方が多いように思います。土木分野には、経験がなければわからないこと、経験があるからこそ動かせる物事があり、私も経験は非常に重要だと思っています。

しかし、この言葉自体は間違いでないものの、土木のこれからを考える際には、少し危険を含んだ言葉であるような気がしています。

そもそも、経験工学って?

経験工学は「経験の蓄積と継承によって、機能性、安全性、利便性などを高めていく工学の手法(デジタル大辞泉(小学館))とされています。既にあるものを伝承し、磨き上げることにより発展していくことですね。

そういう意味では、土木の分野でも経験を生かす場面が多く、これに該当すると思うのも自然なことだと思います。

そこの何に私が危険を感じているか、これから説明します。

経験工学」に潜む危険

まず、私は経験工学という言葉自体はネガティブにとらえていません。むしろ、経験があるからこそできることが多かったり、今まで多くの技術者がその経験を基に技術を前に進めてきたことは素晴らしいことだと思っています。

ただ、経験工学とは経験を大切にすることであり、経験がすべてという意味ではありません

経験的に、このくらいやっても大丈夫」
「今までの経験だと、そのやり方は無理」
「あなたは経験がないから、それはできない」

など、直接言葉にはされなくても、このような空気が流れている職場は多いんではないでしょうか?これは、とても「危険」です。

なぜか?

私は以下の3点を問題点と考えます。

  1. 経験に頼りすぎてしまう
  2. これから技術の伝承が難しい
  3. イノベーションが起こりにくい

1. 経験に頼りすぎてしまう

どの分野でもそうですが、建設業においても不祥事が後を絶ちません。マンション建設時の杭工事のデータ改ざんなどは記憶に新しいですね。

これも、過去そういうやり方をやってきた、でも大丈夫だった・・・という”間違った”経験がものを言い、その上経済性を過度に考えた結果、このようなことが起きたんだと思います。

もちろん、問題はそれだけではないと思います。

ただ、この「経験=今までこうやってきた」という感覚や空気は、時に大きな事件・事故を引き起こすことがあるのです。

2. これからの技術伝承が難しい

あえて「これからの」と書いたのは、労働人口の減少を危惧してのことです。昔、「経験」は技術者から若手技術者へ、師匠から弟子へ、ある程度の時間をかけて伝承されていきました。

これはとても価値のあるもので、現代においてもこのような指導は必要だと思います。しかし、このやり方は残念ながら非常に効率が悪いという側面もあります。

なんでもかんでも「効率、効率・・・」というのはあまり好きではないのですが、これからの人口減少による労働力の減少の影響で、今までの同じような技術継承が難しいのは自明なんです。

経験工学だから・・・と、自分の背中を見せるだけではなく、いくらか体系化された指導も、今後は必要になってくると考えられます。

3. イノベーションが起こりにくい

今、建設業や各発注機関おいても、AIなどの最新技術を用いて工事や仕事を効率化しようという動きが増えてきています。

これは将来の土木技術にとって必要不可欠なイノベーションだと思います。

ここであまりに「経験」に頼りすぎてしまうと、このイノベーションについていけなくなる恐れがあります。

実際、今の建設業の世界は、他の分野と比べて、最新技術の導入が相当遅れていると思われる方も多いのではないでしょうか?

場合によっては、今までのやり方を捨てて、新しいやり方に挑戦することも必要です。この「新しいやり方に挑戦」する場合は、経験はあまり役に立ちません

こういうことを考えると、「経験工学」と呼ばれる土木の分野で、イノベーションが遅れ気味なのも頷けます。

「経験」を正しく活かすには

何度も繰り返しますが、「土木は経験工学」ということには私は賛成ですし、経験のある熟練技術者には敬意を表しています。

ただし、この非常に大切な「経験」が、正しく活きていないことに課題を感じています。

では、この「経験」を正しく活かすには、どうすればいいのでしょうか?

大事なのは、経験の浅い若手技術者の姿勢だと思います。若手技術者は先輩たちの経験、感覚というものを吸収しながら、これを裏付ける理論の習得も行ってください

安易に、経験則とか、感覚的に・・・とか、そういった考えで課題に取り組むのはやめましょう。

今若手と言われている年代が、指導的立場になるのもそれほど遠い話ではありません。

その頃には、労働人口の減少が危惧されているだけではなく、既にあらゆる部分で実際に問題が起こっていることでしょう。

その時に、熟練者から得た技術や自分の経験を、それを裏付ける理論とともに伝えていくことができれば、技術伝承はかなりやりやすくなると考えています。

これから人口減少や働き方改革など、土木分野が直面する変化はかなり激しいものです。今まで培った大切な「経験」が、しっかりと活かされるように、技術者全員が意識を持ちたいものです。

このサイトでも、大学で学ぶような土木工学の理論に関する記事も書いていますので、もしよければ参考にしてくださいね!

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