公共事業の入札契約手法の推移-公平公正・技術の進歩をどのように実現するか?

土木技術者が多く関わる公共事業、公共工事では、国や地方公共団体などの発注者と施工者や設計者が契約し、事業、工事を進めていきます。

発注者が発注する工事や設計業務などに対して、受注者が手を挙げ、入札を行い、契約に至るのですが、公共事業ではその際公平性を保つことが非常に重要です。

また、土木分野では特に、公共事業の中で最新技術を取り入れることによって、技術の発展、開発を進めていかなければならないので、公平性だけでなく、技術開発が適切に進められていくように契約や入札の手法を考えていかなければなりません。

そういった背景の中で、過去の反省を活かしながら契約の形は過去から少しずつ変わってきました。

今回は現在の契約や入札の形やそこに至るまでの推移についてまとめていきたいと思います。

公共事業の進め方

公共事業(工事)は大まかにいうと、以下のような順番で進んでいきます。

①調査・計画
②概略設計
③予備設計
④詳細設計
⑤施工
⑥維持管理

工事契約では、その工事の特性によってこれらの過程のうちどこからどこまでを民間が行い、どこからどこまでを公共が行うかが変わってきます。

契約・入札・落札とは?

公共事業が発注者より発注され、入札、落札、支払いに至るまでのそれぞれの手法のことを全部ひっくるめて「入札契約方式」と呼ばれています。

世間一般では馴染みがないのでわかりにくいのですが、契約の手法であったり入札や落札者の決定方法の組み合わせで、この入札契約方式が決まってきます。

国や都道府県、鉄道会社や高速道路会社などの発注者がどのような仕事をどのような役割分担で行うかを決め(契約方式)、それに対してゼネコンや建設会社などの民間企業が自分が○○円のお金でやると立候補(入札)します。そして、発注者が誰に事業をやってもらうかを決める(落札)と言う流れで契約が結ばれることになります。

それでは、契約」「入札」「落札のそれぞれに分けて、どのような方法があるのかまとめていきます。

契約方式

まず「契約」について。発注者がどのような契約方式で企業へ発注するのかについてまとめていきます。
それぞれの方式にそれぞれのメリット、デメリットがあるため、公共事業の性質によってどの方式を取るべきなのか適切に決定するのが発注者の大切な仕事と言えます。

設計・施工一括発注方式

設計・施工一括発注方式とは、構造物の形式や構造諸元なども含めた設計(予備設計)を施工と一緒に発注される方式のことを言います。

設計の進捗度合いで分類した3種類「概略設計」「予備設計」「詳細設計」のうち、予備設計から施工者が一緒になってやっていく形になるので、例えば橋梁をコンクリート橋とするか鋼橋とするかといった内容についても施工者が発注者とともに決定していく場合も考えられます。

設計と施工を分離した場合、責任分担もわかりやすく、施工のみが可能であれば入札に参加できるため、広く競争が行われ、価格を低く抑えられるというメリットがあります。しかしながら、施工者の持つ技術力を十分に発揮できなかったり、設計の品質が確保しにくいといったデメリットも考えられます。

こういったデメリットを解決するために行われるのが設計・施工一括発注方式です。以前は設計・施工分離方式が一般的でしたが、最近は技術の進歩も相まって、特に大規模な工事に関しては設計・施工を一括した発注方式が多くみられるようになっています。

詳細設計付工事発注方式

詳細設計付き工事発注方式は、設計・施工一括発注方式と似ていますが、構造物の形式や諸元を既に決定した状態で、施工に必要になる詳細設計を施工と一括して発注される方式です。

構造物の大まかな構造は決定していて、細かな寸法や施工数量などについては施工者が発注者とともに決定していく方式です。

特徴は設計・施工一括発注方式と同じで、この「詳細設計付工事発注方式」はその1種類ということもできるでしょう。

施工を単独で発注する方式

これはわかりやすく、施工のみを発注する方式で、施工を行うための設計については、別途既に行われていることが前提となります。

以前はこの発注方式が一般的、というか当たり前でした。ただ、設計されたものが施工条件を適切に反映できておらず、施工者が設計変更する必要が出てくる例がたくさんありました。

やはり設計者は施工者と比べると現場での施工に関する知識は劣ります。それが顕著に出てしまう工事では、この設計と施工を分離した方式はどうしてもデメリットが大きくなってしまいますね。

維持管理付工事発注方式

維持管理付工事発注方式とは、構造物の施工とその後の維持管理を一括して発注する方式のことです。名前のままですね。

施工者が維持管理まで責任を持って行うため、当然維持管理しやすい構造物となるように知恵を絞りたくなります。そのため、維持管理の品質が保たれるような仕組みになっています。 

設計段階から施工者が関与する方式(ECI方式、CM方式)

この方式では、設計段階に施工者が技術協力者として参加し、施工の数量や仕様を決定した上で工事契約をする方式です。

簡単にいうと、計画の初期段階から設計と施工のプロ同士で構造物の設計や施工法などについて検討を進めることができるため、コスト縮減や工期短縮などのメリットが考えられます。

なお、ECI方式のECIとは、”Early Contractor Involvement”の略で、「早くから施工者を巻き込む」といった意味のことです。

CM方式は”Construction Manager”の略で、主には施工者が発注者の代理人または補助者として発注者の利益を確保する立場から、品質管理、工程管理、費用管理等を行う方式のことを言います。

入札方式

続いて「入札」についてです。公共事業を実際に行う者(企業、団体等)を発注者が選定するために、どのように競争させるかを決定します。

この入札方式についても、公共事業の性質に応じて決定し、公平を確保していく必要があります。

一般競争入札

一般競争入札とは、世の中の資格に適応する施工者がオープンに競争に参加する入札方式です。最も一般的で、透明性、公平性、競争性、経済性に優れた方式と言えます。

資格に適応すれば誰でも参加できるため、昔から一般的に用いられており、わかりやすい方式である一方で、デメリットとしては、発注者側の事務作業が膨大になり、結果としてコストが大きくなってしまう可能性が考えられます。

指名競争入札

指名競争入札では、発注者が入札に参加する企業を複数社指名し、その企業が競争入札に参加します。

最初から不適格と考えられる企業が入札に参加できないため、発注者の事務負担を軽減することが可能です。

ただし、発注者が予め指名する形をとるため、特定の企業に指名が偏ったり、談合がしやすくなってしまうなど、公平性にデメリットがあります。指名基準を公表するなど、公平性を保つ工夫が必要になります。

随意契約

随意契約方式では、競争によって受注する企業を決めるのではなく、発注者が受注者を任意に選定して契約する方式です。

基本的には、ある特定の企業でないと事業を進められない場合や、著しく困難になる場合に適用されます。

指名競争入札よりもさらに発注者の事務負担が軽減され、手続きに必要な期間が短くできるというメリットがありますが、公平性を保ちにくいというデメリットがあります。

ひと昔前に、公共工事で随意契約が不当に用いられていたことが問題になったことがありましたが、この方式を適用する場合は公平性をしっかりと確保していかなければなりません。

落札方式

最後に「落札」方式について説明していきます。

落札と言う言葉は、公共事業だけでなくオークションなどいろいろな場面で使われる言葉ですが、公共事業では、実際に事業を行う企業を選定することを言います。

ここでは、落札者を選定する方式について解説していこうと思います。

価格競争方式

価格競争方式では、発注者が指定する仕様に対して、最も低い価格を示した企業が選定される式です。

ある仕事を「安くやります!」と宣言した企業と契約を結ぶという、わかりやすい方式です。

ただ、価格だけが落札者を決める唯一の基準になるので、過度な価格競争やダンピング受注につながり、適正な労働環境が整備されなかったり、構造物の品質が確保できなくなったりする原因になります。

総合評価落札方式

総合評価落札方式とは、入札企業の技術提案を募集することなどによって、工事価格だけでなく、性能や工程、環境対策などを含めて総合的に評価を行い、落札者を決定する方式です。

そのため、価格競争方式とは違い、価格が高くてもそれ以上に品質を確保できると判断された企業が工事を落札できることになります。

発注者が構造物の品質を確保するために、施工者の施工能力を評価した上で契約を行うため、品質の確保がしやすいだけでなく、競争による技術力の向上が期待できます。

技術提案・交渉方式

技術提案・交渉方式とは、発注者が入札を行おうとする企業から技術提案を募集し、最も優れた提案を行った企業と価格や施工方法等について交渉を行って、契約の相手方を決定する方式です。

発注者のみで仕様を決定することが困難である難しい工事に用いられる場合が多いです。

「最も優れた提案」を決定する際は、不公平な評価とならないよう、外部の意見を取り入れるなどして、透明性を確保する必要があります。

まとめ

公共事業が発注され、受注され、形になる流れの中で、どのように発注者と受注者が契約を行っているのかについて説明してきました。

簡単にこの入札契約方式についてまとめると、以下のようになります。

  • 契約方式
    ・設計・施工一括発注方式
    ・詳細設計付工事発注方式
    ・施工を単独で発注する方式
    ・維持管理付工事発注方式
  • 入札方式
    ・一般競争入札
    ・指名競争入札
    ・随意契約
  • 落札方式
    ・価格競争方式
    ・総合評価落札方式
    ・技術提案・交渉方式

それぞれ違った特徴、メリット・デメリットがあります。

公共工事の特性に合わせて最適な入札契約方式を選定するとともに、公平性を保ちながら世の中全体の技術力の向上を促していくことが発注者の大切な仕事になります。

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