構造物の力学的性質を示す構造力学用語ー弾性・塑性・剛性・靭性・脆性

構造力学用語の中には、構造物の力学的性質を示す用語がいくつかあります。

弾性、塑性、剛性、靭性、脆性などです。

構造物の変形や挙動についてコミュニケーションをとるときに、これらの言葉をしっかり使えるととても便利です。

今回は、これらの用語が物体の変形についてどのような性質を示すのか、解説していきたいと思います。

構造物の変形特性

構造物の設計を行うときには、構造物に力がかかった時の変形を、構造物の性能が確保できる範囲内に収める必要があります。

構造物にかかる力は、構造物自身の自重、自動車や電車、人などが乗る荷重、トンネルに作用する土圧、そして地震時に作用する荷重など、いろいろなものがあります。

基本的に構造物は大きな変形が発生しないように作られますが、地震などの災害を想定した場合は、第3者被害を出さない限りは大きく変形するのも許容して設計する場合もあります。

その時にしっかりと理解しておきたいのが構造物の変形特性です。

構造物の変形にどのような特徴があるのかをとらえることにより、変形が生じたときの安全性について議論することができます。技術者は、構造物の変形の特徴や性質を示す用語を使ってコミュニケーションをとるので、変形特性に関する用語を理解しておくのはとても重要であるといえます。

構造物に用いられる材料に生じる力と変形の関係について、以下の記事で応力ーひずみ関係のグラフを見ながら解説しています。本記事と合わせてご覧ください。

弾性・塑性・降伏・終局・耐力・強度などの構造力学の専門用語、正確に使えていますか?本記事では、これらの用語について、応力ひずみ関係のグラフを見ながら読み解いています。

弾性

弾性とは、変形しても元通り(力がかかる前の状態)に戻る状態のことを言い、多くの場合応力とひずみが比例関係にあるという特徴があります。

ばねは重りをつけることによって力がかかると伸びますが、重りをとると元の長さに戻りますね。これと全く同じことで、ばねと同じように「フックの法則」が成り立っている状態が弾性と呼ばれます。

構造物は普通はこの弾性範囲内の挙動となるように設計されます。

塑性

塑性とは、材料の挙動が弾性範囲を超え、形が完全には元に戻らなくなる性質のことを言います。元に戻らずに変形したままの状態の時の変位やひずみを残留変位残留ひずみなどと呼び、力が抜けても変形・ひずみが残ってしまうことになります。

弾性と対になる用語として呼ばれ、構造解析などで弾性・塑性両方の特徴を持たせたモデルを用いる際は「弾塑性」という言葉も使われます。

多くの材料は弾性と塑性の性質を併せ持っていて、弾性範囲内に収まるレベル以上の力が作用すると塑性挙動を示すことになります。

塑性範囲の変形になると、応力とひずみが比例関係にならなく(フックの法則が成り立たなく)なります。

剛性

剛性とは、構造物の変形のしにくさを示す性質のことを言います。

よく「強度」や「強さ」と混同されますが、強度や強さは材料が持ちこたえられる最大の力を意味するのに対し、剛性は変形がどれほど抑えられるかを表します。

つまり、変形が大きくてもより大きな力に耐えられる構造は「強度が大きい」と言えますが「剛性が大きい」とは言えません。
一方、ある程度の力がかかると壊れてしまうが変形しにくいような構造は「強度が大きい」わけではありませんが「剛性が大きい」ということができるでしょう。

剛性にはいくつかの種類があります。軸剛性、曲げ剛性、せん断剛性、ねじり剛性などです。

それぞれ「軸力」「曲げモーメント」「せん断力」「ねじりモーメント」に対する「変形のしにくさ」を表しており、以下の式で定義されています。

A:断面積
L
:部材長さ
E
:弾性係数
I:断面2次モーメント
G:せん断弾性係数
J:ねじり定数

一見定数が多くてわかりにくいのですが、導出はそれほど難しくありません。また、式の形としても、ねじり剛性のみ特殊ですが、(材料の性質による変形しにくさ)×(断面の形状による変形しにくさ)の形になっていると覚えておくと、より意味が理解しやすいでしょう。

靭性

靭性とは、構造物が降伏してから破壊するまでにどれほど粘り強く変形するかを示す性質で、力を受けてから破壊するまでの間のエネルギーの吸収能で表されます。

靭性が大きければ衝撃を吸収したり大きく変形できるということを意味します。

構造物の破壊挙動を踏まえて構造物を設計する際は、靭性を持った挙動を示した後に破壊することが好ましいと考えられます。なぜかというと、変形が大きくなって形が崩れても、完全に破壊(例えば橋なら落橋)するまでに時間的な猶予ができるからです。

もし、靭性が無ければ、構造物が破壊するときの力が同じでも、変形が生じてからすぐに破壊してしまうため、より危険な破壊形態になってしまうと言えるでしょう。

脆性

脆性(ぜい性)とは、靭性とは反対に、構造物のもろさを表します。

靭性のない破壊形態は脆性破壊と呼ばれ、一般的には構造物は、この脆性破壊は生じないように設計がなされます。

例えば、下図のような曲げを受ける鉄筋コンクリートの梁を考えると、コンクリートの圧縮破壊と鉄筋の引張破壊が生じる恐れがあります。

この場合、脆性破壊となるコンクリートの圧縮破壊より先に、より人生を持った挙動をする引張鉄筋の引張破壊が発生するように考えなければなりません。

その他:延性、展性

その他に、材料の力学的性質を表す言葉として延性や展性があります。

特に金属分野、土木分野では鋼構造の分野で聞くことがあるでしょう。

延性とは、材料を引っ張ることで細長く引き伸ばすことのできる性質を言い、展性とは、薄くたたきのばすことのできる性質のことを言います。

構造物に対して使用する用語ではなく、(金属)材料単体に対して使用される用語であるといえるでしょう。

まとめ

弾性塑性剛性靭性脆性(+延性、展性)という構造物の力学的性質を示す用語について解説しました。

構造物として使用される材料にもいろいろな特性があり、それぞれの強みを活かせるように設計されています。

これらの用語を正しく理解し、正確なコミュニケーションが取れるように心がけましょう。

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