応力ーひずみ関係から見る構造力学用語ー弾性・塑性・降伏・終局・耐力・強度

構造力学の専門用語の中で、なんとなく意味が解っていても実は定義が頭に入っていなかったり、違いがわからない用語がある人は少なくないのではないでしょうか?

例えば「降伏応力」や「強度」、「耐力」などです。

一般的には物質の”強さ”と表現することで意味は通じることが多いかもしれませんが、構造力学の世界でコミュニケーションをとるには、それが降伏応力を指すのか、強度を指すのか、耐力を指すのか・・・などを明確にして使い分ける必要があります。

そして、それぞれの用語は、構造力学や材料工学の基本となる、材料の応力ーひずみ関係を読み解くことで容易に理解できるようになります。

本記事では、その強さを表現する用語の定義や意味、使い方などについて、応力ーひずみ関係を用いておさらいしていこうと思います。

応力-ひずみ曲線

「応力」と「ひずみ」とは?

そもそも、「応力」と「ひずみ」とはどういうものを指すのでしょうか?

以下の図のように、壁に固定されたある材料が、一つの方向にPという力で引っ張られている状態を想像してください。

この時の断面積がA、引っ張られる前の長さが、引っ張られた後にΔℓだけ伸びたと考えると、応力「σ」とひずみ「ε」は以下のように定義されます。

式だけ見てもよくわかりませんが、応力σは、面積当たりどのくらいの力が加わっているかを示し、ひずみεは、もともとの長さからどれだけ伸び縮みしたか、を示すものになります。

応力ーひずみ関係のグラフ

上述した応力とひずみの関係を応力ーひずみ関係と呼びます。そのままですね。

この関係は、構造力学や材料工学での物質の挙動を考えたり、解析を行う際に非常に重要になってきます。

この「応力ーひずみ関係」と言われたら、一般的に以下のようなグラフを想像してください。以下のグラフは鋼材の応力ーひずみ関係の概略図を示しており、引張が+側になります。

原点0から見ていくと、応力が大きくなるにつれひずみも一定の割合で大きくなっていき、ある点で減少に転じます。しかし、減少に転じたらすぐ応力は一定となり、その後曲線的に変化していることが分かります。

この応力ーひずみ関係のグラフを用いて、構造力学用語の解説をしていきたいと思います。

構造力学用語の解説

それでは、実際に応力ーひずみ関係のグラフを見ながら解説していきましょう。

ここでは以下の用語について解説します。

  • 弾性
  • 塑性
  • 降伏
  • 終局
  • 耐力
  • 強度

それぞれの語に「応力」がついたり(降伏応力、終局応力)、「限界」がついたり(弾性限界)してたくさんの用語が生まれています。それについてもできる限り触れていきたいと思います。

弾性

弾性とは、応力とひずみが比例関係にある状態のことを言い、応力ーひずみ関係のグラフでいうと以下の範囲を指します。

この状態のときの材料は、力を抜くと元の状態に戻るという特徴があります。

材料が弾性の状態のときの応力とひずみの関係は以下の式のようになります。

E弾性係数またはヤング率と呼ばれ、単位は[N/mm2]や[kN/m2]などが使われます。

また、この式はフックの法則として知られている式でもあります。フックの法則といえばF = kxで覚えている人も多いと思いますが、意味はこれと全く同じで、「力(応力)」と「変位(ひずみ)」が比例の関係にあることを示しており、ばね定数kに対応するのが弾性係数Eということもわかると思います。

・弾性域、弾性範囲:応力ーひずみ関係が比例関係にある範囲のこと。
・弾性挙動:弾性範囲内における挙動のこと。また、力を抜いたら元に戻る挙動のこと。
・弾性変形:弾性範囲内における変形のこと。
・弾性限界:弾性範囲内での挙動をする限界の応力度のこと。

塑性

塑性とは、より力が大きく作用した場合に、材料の挙動が弾性範囲を超え、応力とひずみが比例関係にならなくなる(フックの法則が成り立たなくなる)ことを言います。グラフでいうと以下の範囲のことです。

材料が塑性範囲の挙動を示すようになると、力を抜いても元の状態には戻りません。言い換えると、残留ひずみが発生するということになります。

構造物を設計する際には、普段から常に構造物に作用する荷重(死荷重)でこの塑性範囲に入るように設計してはなりませんが、耐震設計を行う際には塑性化を考慮して設計することがあります。

・塑性域、塑性範囲:応力ーひずみ関係が比例関係にない範囲のこと。
・塑性化:材料が弾性範囲を超え、塑性範囲の挙動を示すようになること。(=降伏)
・塑性変形:塑性範囲における変形。また、不可逆的な変形をすること。

降伏

降伏とは、材料の挙動が弾性挙動に収まらず、塑性化してしまうことを言います。

応力ひずみ関係では、弾性域と塑性域の境目の以下の点のことを「降伏点」と呼び、弾性挙動を示していた物質に、より大きな力が作用して塑性挙動になることを「降伏する」といいます。

間違えたくないのは、降伏しても材料は力を受け持ち、完全に荷重を支えられなくなるわけではないということです。

ただ、材料の挙動を分析する際には、この降伏が起きるか起きないか、いつ降伏するのかなどの情報は非常に重要になります。

降伏点:材料が降伏するときの応力とひずみを表す点。
降伏応力:材料が降伏するときの応力。
降伏ひずみ:材料が降伏するときのひずみ。

終局

終局とは、材料が力を支えきれなくなり、完全に破断してしまうときのことを言い、応力ーひずみ関係グラフでは以下の点で示されます。

材料は降伏した後、しばらく塑性変形をしながら力を支えるのですが、それでも支えきれなくなると終局に至ります。
ここまでくると構造材料としての機能は基本的に失われていると考えていいでしょう。

終局ひずみ:材料が終局状態になるときのひずみ。

耐力

耐力とは、材料が降伏する際に作用する応力のことを言い、降伏点とほぼ同じ意味を持ちます。

強さや強度と混同されることが多い言葉ですが、強さまたは強度が最大応力点を指すのに対して、体力は降伏点を指すため、明確に違うものを指しています。

降伏点が明確にわかる材料であれば降伏点と耐力が同じとして考えればいいのですが、鋼材などでは明確に降伏点が現れない材料もあります。

そういう時は、0.2%耐力というのがよく用いられるのですが、この解説はまたの機会に。

・曲げ耐力:曲げに対する耐力。曲げにより降伏するときの曲げ応力。
・引張耐力:引張に対する耐力。引張により降伏するときの引張応力。

強度

強度とは、材料が支えられる最大の応力度のことを言い、応力ーひずみ関係のグラフから極限強度や最大応力点などともいわれます。

「強度が大きい」と言われて、耐力が大きいことや終局ひずみが大きいことをイメージしてしまう方も多いと思いますが、正確には最大の応力度のことを指します。

また、「強度」と「強さ」という語もどちらも使われていて混同する場合が多いと思います。一般的には、強度は「度」が付きますので、ある値として示されますが、強さというと一般的には値で示されないと考えておくといいでしょう。

・引張強度(圧縮強度、せん断強度):引張(圧縮、せん断)に対する最大の応力度。
・材料強度:その材料の強度のこと。

まとめ

今回は、構造力学でよく用いられる応力ーひずみ関係のグラフから、以下の用語を中心として解説しました。

  • 弾性
  • 塑性
  • 降伏
  • 終局
  • 耐力
  • 強度

構造の世界は専門用語が多いので一つ一つ覚えていかなければなりませんが、実は今回紹介した用語の組み合わせで作られている用語も多いです。

基本的な語の意味をしっかりと理解して、正しくコミュニケーションが取れるようにしましょう。

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