高度経済成長期、建設が進む土木構造物において、コンクリートは永久に劣化しない材料であると考えられていました。
しかし、国内外で建設されたコンクリート構造物は、時間がたつと、大きなひび割れが生じたり、鉄筋が腐食するなどの劣化が見られるようになりました。
一方で、遥か昔に建設されたにも関わらず、健全な状態で保たれているものもあります。
この違いは何なのでしょうか?
近年になって、コンクリートの劣化が顕著化する条件があることがわかり、そのメカニズムも解明されてきました。
今回は、コンクリートが劣化する原因やそのメカニズムについて解説していきます。
劣化機構とその種類
コンクリート構造物、部材の劣化が進むメカニズムのことを「劣化機構」と呼びます。
劣化機構にはいろいろな種類があり、それぞれ原因となる劣化因子が異なります。
劣化機構として今回ご紹介するのは、塩害、中性化、アルカリ骨材反応、凍害、疲労、化学的浸食の5つです。
このうち、塩害、中性化が鉄筋腐食が先行して発生する劣化機構であり、アルカリ骨材反応、凍害、疲労、化学的浸食がコンクリート自体が先行して劣化する劣化機構となります。
また、塩害、アルカリ骨材反応、疲労は、コンクリートの3大劣化機構と呼ばれており、多数の事例がある他、様々な対策がなされてきています。
それでは、コンクリートの劣化の種類についてひとつひとつ説明していきます。
塩害
塩害は、その名の通り塩分(塩化物イオン)がコンクリート内に浸透し、鉄筋まで達することによって鉄筋腐食が発生する現象です。
海岸の構造物や凍結防止剤の散布される道路橋などで問題となることが多く、鉄筋腐食の発生によるコンクリートのひび割れや剥離・剥落が発生してしまいます。
コンクリートのひび割れ、剥離・剥落があると、塩化物イオンが水と一緒に更に侵入しやすくなってしまい、鉄筋腐食を誘発する、という悪循環に・・・
塩害への対策としては、コンクリートをち密にしたり、表面保護することにより塩分の浸透を防いだり、かぶりを大きく取って鉄筋までの間を長くする等の対策が考えられます。また、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントを用いるのも有効です。
塩害について、詳しくはこちらをご覧ください。
中性化
中性化は、空気中に含まれる二酸化炭素がコンクリート中に浸透し、鉄筋周辺のコンクリートが中性に近付くため、鉄筋に生じていた不働態被膜が消失し、鉄筋腐食が生じる劣化現象です。
コンクリートは元々強アルカリ性で、コンクリート中の鉄筋の表面には不働態と呼ばれる膜が形成されています。これを不働態被膜と呼び、この存在によって普段は鉄筋が腐食から守られています。
しかし、コンクリートのアルカリ性が空気中の二酸化炭素の浸透によって中性側に近付いてしまうと、この不働態被膜が消失し、鉄筋腐食につながります。
中性化は、コンクリートが空気に触れているところではどこでも発生し得ります。また、湿っている部分より乾燥している部分の方が早く進むことが知られています。
ただ、中性化の進行は比較的ゆっくりと進むため、急激に鉄筋腐食が生じるようなことはあまりありません。
中性化について、詳しくはこちらをご覧ください。
アルカリ骨材反応
アルカリ骨材反応は、コンクリート中の反応性骨材とアルカリ分が反応することによってゲル状の物質が生成され、それが水分を含んで異常な膨脹をするため、膨脹圧によりコンクリートが劣化する現象です。
アルカリ骨材反応が発生すると、コンクリート表面に亀甲状のひび割れが発生します。
コンクリートのがんとも呼ばれ、メカニズムがわかってからも日本では長らく発見されていませんでしたが、2000年代になって様々な知見が蓄積されてきました。
この現象は、反応性の骨材を使ってしまうことが原因で発生するため、コンクリートを練り混ぜる際に反応性骨材を入れないように試験を行うことが決まりになっています。
また、劣化の進行速度も遅く、ゲル状の物質が生成してしまっても水分をコンクリート中に入れないようにさえすれば劣化の進行を防ぐことができます。
アルカリ骨材反応について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
凍害
凍害は、寒冷地で見られる劣化現象で、コンクリート中の水分が凍結融解を繰り返すことにより、コンクリート中の空隙が広がってしまい、コンクリートがボロボロになってしまう現象です。
なかなか日本の暖かい地方では見られませんが、北海道や北日本などの寒冷地で見られます。
コンクリート練り混ぜ時に、エントレインドエアを適切に発生させることやコンクリートを緻密にすること、吸水率の小さい骨材を用いることにより凍害を軽減することができます。
AEコンクリートが一般的になってからは構造物の耐久性に影響するまでの深刻な劣化は少なくなりましたが、第3者被害の防止等のためにしっかりと対策する必要があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
疲労
疲労は、コンクリート部材の耐力内の力が繰り返し作用することにより発生するひび割れや剥離等の劣化のことを指します。
耐力より小さな荷重でも、何千回、何万回と繰り返し荷重がかかることにより、構造物が痛んでくる現象で、コンクリート構造物だけでなく、あらゆる構造物で発生します。
問題になることが多いのが道路橋で、車両の走行による活荷重を繰り返し受けることにより、床版のひび割れが生じている事例が見られています。
部材自体の強度を上げれば問題ないのですが、経済的に不利になったり、上部工が重くなったりしてしまうため、簡単にはいきません。
最近では、新材料の導入により、軽くて疲労耐久性の高い構造物が利用され始めている事例もあります。
化学的浸食
化学的浸食は、硫化水素などの化学物質により、コンクリート表面がボロボロになってしまう劣化現象です。
下水道でよく見られるのですが、下水で繁殖する微生物が発する硫化水素がコンクリートに作用することにより進行します。
また、温泉地などでも、飛来した硫酸塩によりコンクリートが劣化してしまう現象が報告されています。
限られた条件下で発生する劣化現象ですが、高炉セメントを用いたり、適切な表面保護を行ったりすることで、劣化の進行を防ぐことができます。
複合劣化
上述した劣化現象は、いつも単独で発生するわけではありません。むしろ、いくつかの劣化要素が同時に発生してコンクリート構造物を痛めていることの方が多いでしょう。
複合劣化とは、上述した劣化機構のうち複数の劣化機構が同時に発生する劣化現象のことを言います。
組み合わせによっては、お互いの劣化をより速く、激しく進行させてしまうような組み合わせもあるので、複数の劣化要素が作用していないかどうかしっかりと判断する必要があります。
特徴的なものを以下の記事にまとめていますので、ご覧ください。
まとめ
コンクリートの劣化機構について、主たるものをまとめてみます。
・鉄筋腐食先行
塩害、中性化
・コンクリートの劣化先行
アルカリ骨材反応、凍害、疲労、化学的浸食
このうち、以下の3つがコンクリートの3大劣化機構として知られています。
・コンクリートの3大劣化機構
塩害、アルカリ骨材反応、疲労
劣化が見られるコンクリート構造物に対して、上述のような劣化因子が無いか確認し、劣化因子が見られれば、それを取り除くなどの対策を施す必要があります。
また、建設段階ではそもそもこのような劣化を最小限に抑えるように検討を行う必要があります。
コンクリートの劣化機構は、建設段階でも点検時にも必要となる知識ですので、しっかりと理解しておきましょう。