コンクリートが劣化する際、アルカリ骨材反応という劣化現象が見られることがあります。
コンクリートが直接的にダメージを受ける劣化機構で、鉄筋にまで影響が及ぶ事例も報告されています。
本記事では、アルカリ骨材反応(アル骨(あるこつ))の原因やメカニズム、対策などについて説明していきたいと思います。
アルカリ骨材反応とは?
アルカリ骨材反応とは、コンクリートに含まれる特定の鉱物と、Na+、K+といったアルカリ分とが反応することによりゲル状の物質を生じ、そこに水が供給されることによりその物質が膨張し、劣化が生じます。
そのため、劣化の原因は、コンクリートのアルカリ分に反応する反応性骨材を用いてしまうことと言えます。
1930年代にアメリカではじめてアルカリ骨材反応の1種であるアルカリシリカ反応が発見され、日本では1950年代に初めて発見されています。
コンクリートのがんとも呼ばれ、コンクリートの内部で気付かないうちに劣化が進行していってしまう場合が多くあります。
アルカリ骨材反応が生じると、ひび割れが生じたり、弾性係数が減少したり、と言ったコンクリート自体への影響の他、膨脹圧によって鉄筋が破断する事例も報告されています。
種類
アルカリ骨材反応は、以下の3つに分類されます。
・アルカリシリカ反応(ASR)
・アルカリ炭酸塩反応
・アルカリシリケート反応
それぞれの種類について原因とメカニズムを紹介します。
アルカリシリカ反応(ASR)
アルカリシリカ反応とは、コンクリートのアルカリ分と、安定していないシリカ鉱物とが反応することによりアルカリシリカゲルを生成し、それが吸水膨脹することによりコンクリートの劣化が生じる現象です。
シリカ鉱物とは二酸化ケイ素(SiO2)を含む鉱物で、アルカリシリカ反応を引き起こす反応性鉱物には、クリストバライト、トリジマイト、石英などがあります。これらはマグマの冷却速度が速いため、不安定なまま結晶化したものです。
そのため、これらの鉱物を含む岩石は火山岩が多く、安山岩や玄武岩等などに含まれています。
現在日本で見つかっているアルカリ骨材反応は全てこのアルカリシリカ反応(ASR)なので、一般的にはアルカリ骨材反応=アルカリシリカ反応のように思われていますが、厳密にいうとアルカリシリカ反応(ASR)はアルカリ骨材反応の1つの種類ですので、覚えておきましょう。
化学反応式は以下のようになります。ひとつの化学式ではすべてを表現できません。
そのため、n、mには何パターンかの整数が入ります。
nSiO2 + 2NaOH → Na2O・nSiO2 + H2O (アルカリシリカゲルの生成)
Na2O・nSiO2 + mH2O → Na2O・nSiO2・mH2O (アルカリシリカゲルの膨脹)
アルカリ炭酸塩反応
アルカリ炭酸塩反応とは、コンクリートのアルカリ分と、カルシウムやマグネシウムなどの炭酸塩を含む鉱物が反応し、膨脹する現象です。
この反応性の鉱物をドロマイドと呼び、苦灰石や白雲石などの無色・白色半透明の鉱物です。
日本では発症例がないため、あまり問題視されることはありません。
アルカリシリケート反応
アルカリシリケート反応はアルカリシリカ反応とほぼ同じ反応です。
アルカリシリカ反応の一種と言われていますが、コンクリート標準示方書にもアルカリシリケート反応に関する記載は無く、基本的にはアルカリシリカ反応と同じと考えて間違いないでしょう。
特徴
アルカリ骨材反応の特徴は、コンクリート表面に生じる亀甲状のひび割れです。
骨材の膨張によるコンクリートの劣化であるため、膨脹骨材周辺のコンクリートが押し出されるような形でクラックが生じます。
それに伴って、コンクリートの弾性係数も減少してしまうため、アルカリ骨材反応が顕在化すると、構造物全体の耐久性が下がり、大規模な補修や補強が必要となってしまいます。
ただ、進行が速くないので、膨脹の原因となる水を遮断することで、劣化の顕在化は防ぐことができます。アルカリ骨材反応が発見された構造物では、防水処理を行うことで対策している例も多くあります。
試験方法
フレッシュコンクリート時
原因となる骨材に対して、アルカリシリカ反応性試験と呼ばれる試験を行います。この試験には、JIS規格で「化学法」と「モルタルバー法」の2種類が規定されており、「無害」か「無害でない」かを判定します。
化学法は、試料をアルカリ溶液に漬け、反応性があるか無いかを化学分析によって判定する試験です。
モルタルバー法は、実際に対象の骨材を使ってモルタルを作り、促進試験を行うことによって膨脹量を測定する試験です。
化学法の方が早く結果が得られますが、モルタルバー法では実際の膨脹量を確認することができます。
硬化コンクリート
実際の構造物でアルカリ骨材反応が疑わしい現象を発見した場合、どのような試験方法があるのでしょうか?
アルカリ骨材反応が起きているか確認する方法としては、アルカリシリカゲル(ASRの場合)をSEM/EPMAにより観察する方法と、残存膨脹性試験を行う方法があります。
SEM/EPMAによる観察とは、走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは電子線マイクロプローブアナライザー(EPMA)による測定。骨材周囲にゲルが存在し、その形状と組成からアルカリ骨材反応によるものかどうかを判断します。
残存膨張試験では、採取したコンクリートのコアが、今後も膨張する可能性があるかを判定します。コンクリート工学協会DD2、カナダ法、デンマーク法と呼ばれる試験方法があります。
抑制対策
コンクリート製造時に行う抑制対策としては、以下の3つが挙げられます。
アルカリ総量の規制
アルカリ骨材反応は、コンクリート中のアルカリ分と反応性骨材の反応が原因で引き起こされます。
原因の一つであるコンクリート中のアルカリ総量を、3.0kg/m3以下に制限することによって、アルカリ骨材反応を抑制することができます。
3.0kg/m3と言う数字は重要なので覚えておきましょう。
混合セメントの使用
高炉セメントやフライアッシュセメントを用いることによってアルカリ骨材反応を抑制することも可能です。
効果があるとされているのは以下の場合です。
・高炉セメントB種(高炉スラグが40%以上)、C種
・フライアッシュセメントB種(フライアッシュ15%以上)、C種
混合物の量がC種よりも少ないB種では、分量で効果の有無が規定されていることに注意しましょう。
安全な骨材の使用
アルカリシリカ反応性試験を行い、無害と判定された区分Aの骨材を使用します。
アルカリシリカ反応性試験では、区分Aの他にも区分B(無害でない)があり、区分Bの骨材を一部でも用いる場合には、安全性が確認されていない骨材として、他の抑制対策と組み合わせて用いる必要があります。
補修
実際にコンクリート構造物にアルカリ骨材反応が見られた場合、どのような補修が考えられるでしょうか?
構造物の特徴や劣化状況を調査した後、以下のような補修方法が施されている事例があります。
亜硝酸リチウムの注入
アルカリ骨材反応の中でも、アルカリシリカ反応の補修方法です。亜硝酸リチウム(LiNO2)を注入することにより、リチウムイオンと膨脹性のアルカリシリカゲルを反応させて非膨脹とすることにより、それ以上の膨張を防ぐ方法です。
リチウムイオンの働きによって、アルカリシリカゲルはリチウムモノシリケート(Li2・SiO2)またはリチウムジシリケート(Li2・2SiO2)と呼ばれる物質に置換されます。
これらは吸水性がないため、吸水膨張反応が収束すると考えられています。
表面保護
前述の通り、アルカリ骨材反応は、水分がなければ膨脹せず、コンクリートの劣化につながりません。
表面に防水処理を行うことによって、水分の進入を防ぐことで劣化の進行を防ぐ方法です。
表面保護によりコンクリート表面の観察ができなくなると、劣化の進展があった場合に対応が遅れてしまうので、透明な防水材が用いられる例もあります。
その他のポイント
アルカリ骨材反応が発生した場合、RCやPC、鉄板などで構造物を巻きたてて補強する場合もあります。
もちろんその補強によって構造が成り立つことを設計によって確かめる必要がありますが、コンクリートの弾性係数が減少している場合は、補強で対応している例も多くみられます。
ただし、補強の後にアルカリ骨材反応がどのくらい進展するかわからないので、調査できるようにしておくか、残存膨脹性の有無をしっかり確認しておく必要がありますね。
まとめ
アルカリ骨材反応は、骨材の選定を適切に行えば防ぐことのできる劣化現象です。建設時に抑制対策をしておくことが大切でしょう。
- アルカリ骨材反応の中にはアルカリシリカ反応(ASR)、アルカリ炭酸塩反応、アルカリシリケート反応の3種類がある
- 亀甲状のひび割れが特徴
- 試験方法は「化学法」「モルタルバー法」「SEM/EPMAによる観察」「残存膨脹性試験」など
- 抑制対策は「アルカリ総量を3.0kg/m3以下」「混合セメントの使用」「安全な骨材の使用」
- 補修方法は「亜硝酸リチウムの注入」「表面保護」
既に建設されている構造物でも、今後アルカリ骨材反応が顕在化する場合もあります。その時には適切な調査、対策が立てられるような知識を持っておきたいですね。