シールド工法でトンネルを建設する際、トンネルを構築する様々な環境条件、施工条件、トンネルの特徴等を考慮して、まずシールドマシンの種類や仕様を決定していきます。
そんなシールドのうち、近年最も多く用いられる種類のシールドが、 泥土圧シールドと 泥水式シールドと呼ばれるものです。
これらは幅広い地質に適用可能で、大断面にも対応可能、高土水圧下でも採用実績のあるシールドマシンの種類で、この2種類について知識を得ておけば、ほとんどのシールド工事に役立てられると言っていいでしょう。
今回は、そんな泥土圧シールドと泥水式シールドの違いや特徴、適用範囲や実績等について書いていきたいと思います。
どんなシールド?
シールドの分類
シールドマシンは、開放型であるか密閉型であるか、切羽圧をどのように加圧するか、などによって何種類かに分類されます。
泥土圧シールドと泥水式シールドはそれぞれ下図のような位置付けです。
実は、泥土圧シールドは分類上は「土圧式シールド」の1種類なので、正確には 泥土圧「式」シールドとは呼ばず、「泥土圧シールド」と呼ぶのが正解なんです。
一方、泥水式シールドは「土圧式シールド」と並列の関係であるため、「式」を付けます。
泥土圧シールドとは?
泥土圧シールドとは、掘削土を泥土化して所定の圧力を与えることにより切羽を安定させる土圧式シールドの1種で、掘削土を流動化させるための添加材をチャンバー内に注入できる装置を持ったシールドです。
泥水式シールドとは?
泥水式シールドとは、 チャンバー内の泥水に所定の圧力を加えることにより切羽を安定させ、泥水を循環させることで掘削土を流体輸送する仕組みを持ったシールドです。
泥土圧&泥水式シールドマシンの比較
泥土圧シールドと泥水式シールドの模式図を書いてみると、下の図のようになります。
この図を見ながら、マシンの違いについて考えていきましょう。
シールドマシンの一般的な機能や構造については、以下の記事で触れていますので、ご覧ください。
切羽の安定
泥土圧シールドと泥水式シールドの主たる違いは切羽の安定機構です。
泥土圧シールドでは チャンバー内に充填させた泥土に加圧することにより切羽の安定を図るのに対し、泥水式シールドでは チャンバー内の泥水の液圧により切羽の安定を図っています。
簡単に言うと、土圧で対抗するか水圧で対抗するかの違いですね。
その違いが後述する色々な特徴を生んでいます。
泥土圧シールドでは、掘削土と添加材を撹拌して 塑性流動化して(ドロドロになって)不透水性を高めた泥土で切羽を押すのですが、礫が多すぎて添加材で塑性流動化できない場合は加泥材を投入するなどの工夫が必要です。
また、大きな礫が多いと、掘削土の取り込み口が閉塞されてしまうこともあるので、注意が必要です。
泥水式シールドでは、粘性を持たせた泥水をチャンバーに送り込み、 泥膜と呼ばれる不透水性の膜を作って切羽の土水圧よりも少し大きな液圧をかけます。これは、地山の方にも泥水を浸透させて地盤の粘着性を大きくするためです。
ただ、地盤の透水性があまりに高かったり巨礫の多い地盤では、 泥水がどこまでも浸透してしまってうまく圧を地盤に伝えられなくなる逸泥が起こる可能性があるので、泥水の粘性の調整が非常に重要です。
なお、土圧式シールドでは、切羽を泥土により安定させるのは泥土圧シールドと同じですが、掘削土が砂質土や砂礫土の場合、土の透水性が大きく、土同士の摩擦も大きいため、チャンバー内に充填して流動性を確保することが難しくなってしまいます。
そこで、添加材を加えて掘削土を塑性流動化させる泥土圧シールドが多く用いられでいるんですね。
排土機構
泥土圧シールドでは、チャンバーとシールド内部とを仕切る隔壁からスクリューコンベアを使って掘削土を取り込み、それをベルトコンベアやズリ鋼車を使って排土していきます。
スクリューコンベアを用いずに、ポンプ圧送によって地上まで排土することもあります。
この排土をいかに効率よくやるかが全体の施工スピードに大きく関わってきますね。
一方、泥水式シールドはチャンバー内へ送泥管で泥水を送り込み、排泥管で掘削土とともに泥水を地上へ排出していきます。
そのため、切羽、チャンバーは作業空間(トンネル内)と隔壁によって完全に仕切られ、密閉されているのが特徴です。
カッターヘッド
カッターヘッドは正面から見た形で スポーク型と面板型の2種類に分けられます。(断面形状ではフラットタイプ、セミドームタイプ、ドームタイプに分けられますが、泥水式、泥土圧式の差はあまりないのでここでは触れません。)
泥土圧シールドの場合多く用いられるカッターヘッド スポーク型と呼ばれ、カッターヘッドの中心からスポークと言われる棒にカッタービットを設置しています。掘削した土砂はこのスポークの間からチャンバーに入ります。
泥水式シールドで多く用いられるのは 面板型と呼ばれており、面板のカッターヘッドにカッタービットを設置しています。土砂を取り込むための穴が開いており、そこからチャンバー内に土砂を取り込むようになっています。
工法の選定
泥土圧シールドと泥水式シールドを用いたシールド工法の特徴を比較し、工法の選定の際に着目すべき事項について書いていきます。
それぞれ得意分野・不得意分野があるので、理由とセットで理解しておきましょう。
適用地盤
一般的には、泥土圧シールドと泥水式シールドは礫、砂、粘土や沖積層、洪積層など幅広い地盤に対して、適切な補助工法を採用することにより対応できます。
ただし、泥土圧シールド工法では、 高水圧化ではスクリューコンベアでの排土が追い付かなくなる場合があるので、圧力保持装置の装着や掘削土の土質の改良、圧送ポンプを直結する等の工夫が必要です。
また、泥水式シールド工法では、 逸泥の起こりやすい透水性の高い砂質土や巨礫の多い地盤は得意としないと言われています。
いずれも一般的な特徴ですが、適切な補助工法を選定すれば適用地盤に大きな差はないと考えていいでしょう。
あとはコストとの兼ね合いですね。
施工環境
掘削地盤の特性によっては、施工環境にも差が出る場合があります。
例えば、掘削土の中に 可燃性ガスや有毒成分が含まれている場合、泥土圧シールドで用いられるスクリューコンベア→ベルトコンベアというずり出し方法だと、作業空間にガスが出ていってしまう可能性があります。
一方、泥水式シールドでは送泥管、排泥管で送排泥するため切羽は密閉されており、可燃性ガスや有毒成分が作業空間に出ていくリスクは小さくなります。
地上設備
シールド工法による掘削土は、全てが産業廃棄物(建設汚泥)として処理されるわけではありません。
産業廃棄物として捨てる場合と一般土砂として処理される場合もあれば、再利用される場合もあります。
産業廃棄物と一般土砂との自治体により異なるようなのですが、泥状(どろどろ)のものは汚泥として扱われる場合が多いようです。
この 掘削土の処理方法により必要な地上設備の大きさが変わってきます。
泥土圧シールド工法の場合は、掘削土が泥状であるか無いかで産業廃棄物と一般土砂とを分けます。
ただ、泥水式シールドで排出される土砂は、地上で水と掘削土を分けた後に産業廃棄物と一般土砂を分けるのですが、一次処理で砂分のみを一般土砂とし、その残りを二次処理で一般土砂と汚泥と分ける、など、処理がややこしく、 施工ヤードが広くなってしまうという特徴があります。
実績
泥土圧シールドと泥水式シールドの日本国内での2008年から2017年までの工事件数の実績は以下のグラフのようになっています。
最近は工事件数で言うと泥土圧シールドが73%、泥水式シールドが24%くらいになっているようです。
シールド工法は都市トンネル工法であるため、施工ヤードが限られている場合も多くあります。
近年はその部分が泥土圧or泥水式の判断理由になっている場合が多いようですね。
まとめ
泥土圧シールド(工法)と泥水式シールド(工法)の比較について書いてきました。
トンネルの工法としては比較的新しいシールド工法ですが、一昔前よりもマシンの性能が上がってきていて、どちらかじゃないとダメ、といった場合はあまりありません。
トンネルごとの特徴をよくよく事前に調査し、コストや工程のことを考えてどの工法を選定するか考えていく必要があるでしょう。
それと同時に、これからも社会的なニーズに合わせて様々な技術が生まれてくるはずです。いろんな情報に目を光らせておきたいですね。