進化するシールド工法-特殊系シールドとは?

シールドトンネルと言うと、都市トンネルの1つで、シールド(マシン)を用いて地中を一直線に掘進するため、断面は一定円形で、分岐はないトンネルが出来上がるのが一般的です。

しかし、建設技術の向上に伴い、これらの一般的な特徴に合わない特殊系シールドトンネルもと呼ばれるものも多く建設されています。

本記事では、そんな特殊シールド工法について紹介、解説していきます。

非円形シールド

シールドトンネルと言えば円形で、当然それを構築するシールドも円形のことがほとんどです。

円形は力学的に有利であり、シールド工法が発案された当初から円形で作られてきました。

しかし現在では、セグメントの高強度化やシールドのパワーアップ、高精度化のおかげで様々な断面のシールドトンネルが存在します。

目的物に適した形に近い断面のトンネルを構築することにより、不要な断面を小さくすることができ、占用面積を小さくするなど合理的な断面とすることができます。

一方で、補強のための中柱が必要だったり、円形シールドの場合はある程度許容される掘進時のローリングについても、非円形断面とする場合は厳しく管理していく必要があります。

複円形シールド

正面から見ると円形がいくつか並んだ形をしているシールドです。

合理的な断面とすることが可能で、地下鉄の駅のホームを構築する際などに用いられることが多くあります。

必要断面に合わせて、円形が横に並んでいる形や縦に並ぶ形など、様々です。円形の間の部分が構造的な弱点になるので、中柱を構築する等の補強が必要になります。
また、掘進中も円形よりローリングの影響をもろに受けてしまうため、より精緻な掘進管理が必要になります。

工法例としては、DOT工法MFシールド工法が挙げられます。

DOT工法の事例は、広島新交通システム(1994年)を始めとして神戸市高速鉄道(1999年)など、国内で多く用いられています。

MFシールドも、横3連型MFシールドの施工事例として大阪市地下鉄7号線大阪ビジネスパーク停留場の工事などが挙げられます。

楕円シールド

その名の通り普通の円形シールドと違って、「楕円」のシールドもあります。

トンネルの断面も楕円となり、目的物によっては合理的な断面とすることが可能です。

ただ、トンネルが構造的に不利になりやすいため、セグメントを高強度のものを用いる必要がある他、掘進中も円形断面と比べてローリングが小さくなるよう厳しく管理する必要があります。

また、カッターのスポークも全て同じ長さだとトンネル断面は楕円にならないので、長さを調節できるような機能や、カッターヘッドの形状を工夫するなどして楕円形を構築しています。

東京の下水道事業に積極的に導入され、多数の実績があります。

矩形シールド

「矩形(くけい)」断面、つまり四角い断面のシールドです。これも複円形や楕円形と同様に掘進時のローリングには要注意です。

円形よりも不利な断面となりやすいため、セグメントは円形と比べて高強度とする必要があります。

これもカッターヘッドのスポークが伸び縮みしたり、大小2つの駆動部を持つカッターを用いるなどして矩形断面を構築していきます。

東京下水道の大森幹線や地下河川、地下共同溝に多く用いられてきている他、最近では高速道路の出口にも適用された例もあります。

断面変化シールド

普通のシールドトンネルではシールド1機につき断面は一定で、断面の大きさを変えようと思ったらそれぞれの断面の2機のシールドの準備が必要になります。

ここで紹介する種類のシールドでは、1機のシールドのみでトンネルの途中で断面の大きさを変更することができるため、工期やコストの面で有利だと言えるでしょう。

基本的には円形→円形で断面の大きさだけが変化するものです。円形→楕円形等の断面変化も技術的には可能かもしれませんが、実績はありません。ニーズもあまりないかもしれませんね。

親子シールド

地中もしくは立坑内で断面の大きさを変化させるシールドのことをいいます。

断面の大きいシールド(親シールド)から断面の小さいシールド(子シールド)へ変化させる場合もその逆もあります。

地下水位が高い場合は断面変化点での止水構造に留意する必要があります。

地中で親シールドから子シールドへ断面変化させる工法例としてMSシールド工法があります。

着脱シールド

シールドが立坑を通過する際に、立坑内でシールドの横に別のシールドを接合し、次の立坑までの一定の区間だけ断面を変更したシールドトンネルとする方法です。

次の立坑で接合したシールドを撤去するので「着脱」と呼ばれています。

地下鉄の駅等、断面を一部分大きくする必要がある場合に、その大部分を非開削で行うことができるというメリットがあります。

着脱三連型シールドとして用いられた実績があります。

拡大シールド

最初にシールドトンネルを構築し、任意の点から断面を大きくするための拡大シールドを掘進させることによって、一部分の断面を大きくすることができます。

まず円周方向に円周シールドを掘進させ、一部分を拡大し、その後その拡大部分からドーナッツ状の拡大シールドを発進します。

拡大断面のセグメントの設置と旧セグメントの撤去を繰り返すことによって断面の変化したトンネルを完成させることができます。

珍しい工法に見えますが、1980年代には送電線管路や共同溝、下水道等で利用されていたようです。

地中分岐シールド

一般的には、シールドは一直線で、分岐を作る場合はその部分に立坑を設けるなど、地上からの開削が必要でした。

しかし、地中分岐が可能なシールドが開発され、立坑を設けずに分岐点を作ることが可能になりました。

地下鉄の分岐点や高速道路のランプを作る際に用いられた例があり、コスト縮減、工程短縮に貢献しています。

複円形シールドからの分岐

途中まで複円形シールドのような形で掘進し、分岐点で切り離すシールドです。

代表的な工法にH&V工法があります。H&Vとは、”Horizontal”と”Vertical”の頭文字を取ったもので、複円形シールドを旋回させ、縦や横に並んだ状態から分岐させることができます。

水道や地下鉄の工事で用いられた実績があります。

既設シールドトンネルからの分岐

既設トンネルの側面から別のシールドを発進して分岐部を構築する方法です。

シールド機の側面から発進する場合や、トンネル内に反力を取って発進する場合があります。

水道、下水、電力等で実績があります。

地中接合シールド

地中分岐とは反対に、地中で接続させるシールドです。

分岐部を非開削で構築できるというメリットは地中分岐シールドと同じですが、シールド施工の中でも難しい「到達」を地中で行うことから、接合直前の測量や正確な掘進管理が求められます。

正面接合

2機のシールドの正面同士を接合させる手法です。

片方のシールドからもう片方のシールドに向かってスキンプレートを押し込んでいき、接合させる手法です。

代表的な工法としてはMSD工法があります。

そもそも立坑を接続部分で設けなくてもよいというメリットの他、立坑への到達の際に生じる出水のリスクが軽減できるというのが特徴です。

既設トンネルへの側面接合

既設トンネルへ到達する接合方法です。

シールド機に格納している切削ビットの付いたセグメントリングを用いて既設トンネルの側面を直接掘削します。

そして、シールド機を貫入することによって接合を完了する手法です。

実績としては、T-BOSS工法と呼ばれる工法が東京都の下水道の建設で開発され、適用されました。

まとめ

特殊シールドについて、以下の大きな分類で説明してきました。

  • 非円形
    合理的な断面とすることが可能。円形より構造的に不利なので、補強部材やローリングの防止等の掘進管理が重要。
  • 断面変化
    立坑なしで断面を変化させることが可能。断面変化点での止水や施工時の管理が重要。
  • 地中分岐
    立坑なしで分岐が可能。線形管理や分岐シールド発進時の管理に注意する。
  • 地中接合
    立坑なしで分岐が可能。接合点を正確に測量する必要がある。

シールド工法は円形で一直線と言うのを前提に育ってきましたが、技術の進歩で特殊系のシールド工法も出てきています。
ただし、便利、合理的である一方で、構造的、施工的に不利になる場合も多くあるので、採用を検討する際は地質条件や周辺環境をしっかりと把握しておく必要があるでしょう。

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