NATMとは?-その歴史や特徴、施工手順について

日本の道路や鉄道を山岳地に通す際に多く用いられてきている山岳トンネル。

古くから用いられてきた工法で、今でも様々な最新技術と組み合わせて多くの場面で用いられています。

本記事では、山岳工法として代表的なNATMについて、施工手順や特徴をまとめていきたいと思います。

NATMとは?

NATMとは、 New Austrian Tunneling Method(新オーストリアトンネル工法) の略で、古くから用いられてきているトンネル工法の1つです。

そのNATMの基礎的な内容をまずまとめていきます。

山岳工法=NATM?

山岳工法と言えばNATMを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

現在の山岳トンネルのほとんどはNATMで作られるため、このように理解しておいても基本的には問題ありません。

しかし、山岳工法とNATMは厳密には違うものです。NATMは山岳工法のひとつの種類なんです。

では、NATM以外の山岳トンネルではどのようなものがあるのでしょうか?

それは矢板工法と呼ばれ、NATMが日本で普及し始める1980年頃までは主流の工法でした。「従来工法」と言う呼ばれ方もします。

吹付けコンクリートとロックボルトで掘削後の地山を支保するのに対し、矢板工法では、矢板を掘削面にあてがって、支保工により支え、これらをコンクリートで巻きたてることにより構築するトンネルです。

土圧が覆工に均等に作用しにくいこと、地山が緩みやすいこと、矢板と地山の間に空間ができるため止水性に問題があることなどから、NATMの方が断然品質が確保しやすく、現在の山岳トンネルではほとんどNATMが使われています。

NATMの歴史

NATMは1960年代にオーストリアで誕生しました。

オーストリアは山岳トンネルの建設が多かったため、山岳工法が一歩進んでいたと言われています。

提唱した技術者は、ラディスラウス・フォン・ラブセビッツ、レオポルド・ミュラー、フランツ・パッヒャー の3人と言われています。

日本初のNATMは上越新幹線の中山トンネル(群馬県)で、熊谷組による施工で1977年に貫通しています。その後、1980年代から日本で広く使用されるようになりました。

特徴

NATMの特徴は、ロックボルトを用いることで地山の保持力によって土圧に抵抗し、覆工を薄くできることです。
矢板工法の場合だと、土圧を覆工で支えるため、覆工圧がNATMと比べて大きくなってしまいます。

逆に言うと、NATMで作られたトンネルを点検しているときに、外力が原因とみられる変状が確認されたら素早い対応を取る必要がありますね。

その他にも、施工が機械化できる部分が多く、少人数での施工が可能であることや、断面が大きくなっても対応できる、または任意の形状の断面を構築することができるといったメリットがあります。

一方、ロックボルトを打ち込む穿孔機や吹付けコンクリートの吹付け機が必要になることから、大掛かりな設備が必要になるというデメリットもあります。

NATM工法の施工手順

NATMの施工手順について簡単に説明していきます。大きく分けて以下の4つの手順となります。

  1. 掘削
  2. ずり出し
  3. コンクリート吹付け
  4. ロックボルト打ち込み
  5. 覆工コンクリート打設

1. 掘削

掘削から始まります。

山岳トンネルの場合、最初の坑口を掘削するときは地山表面を掘削することになり、比較的地山が緩い場合があります。

そのため、坑口付近では周りを補強する等の工夫が必要な場合も多いですね。

掘削はダイナマイトを用いたり、掘削機を使ったりして進めていきます。

2. ずり出し

設計上は問題になりませんが、施工中はこのずり出しを効率よく進めることが重要です。

「ずり」とは、掘削した土砂のことを言い、これをダンプやトロッコで運び出すことをずり出しと呼んでいます。

3. コンクリート吹付け

掘削をした後は、地山を補強するために一次覆工としてのコンクリートを吹付けます。

覆工コンクリートを打設する前に、コンクリート吹付けを行ったトンネルの測量を行い、変位が収まっていることを確認する必要があります。
地山の変位が起こると、覆工コンクリートに必要のないひび割れが起こる可能性があるので、しっかりと測量することが必要です。

4. ロックボルト打ち込み

吹付けコンクリートが固まったら、地山の強度を利用するためにロックボルトを打ち込みます。

本数や長さなどは事前に地質調査を行い、決定しておく必要があります。

また、他のトンネルとの近接施工となる場合は、ロックボルトの長さや打ち込み方について慎重に検討する必要があります。

5. 覆工コンクリート打設

ロックボルトを打ち込んだら、最後に覆工コンクリートを打設するのですが、その前に防水シートを貼るのが一般的です。

トンネル上部の円弧となっている部分に防水シートを貼り、トンネル内部に侵入してくる水をトンネル底部で排水するのトンネルを排水型トンネルと言い、一般的に用いられています。

ただし、トンネルが地下水位より低かった場合、排水型とすると周辺の地下水位を下げてしまうため、自然環境への影響が大きくなります。
こういった場合、自然環境への影響を最小限に抑えるために、トンネルの底部にも防水シートを貼り、防水型トンネルとすることがあります。

覆工コンクリートは打ち込みが不足すると一次覆工との間に空隙ができてしまいひび割れや漏水の原因になるので、充填できていることをしっかりと確認する必要があります。

まとめ

NATMの歴史、特徴、施工手順についてまとめてきました。

NATMは山岳トンネルの代表的な例ですが、最近では適切な補助工法を適用することにより都市部や低土被りのトンネルにも適用が可能になってきました。

大規模で高価なシールドマシンを用いるシールドトンネルよりも安価ですが、軟弱地盤に対しては慎重に工法を選定する必要があります。

強固な地盤が多い海外で発展したNATMですが、軟弱な地盤の多い日本で更に発展を遂げていっています。

これからもNATMに関する最新技術に注目していきたいですね。

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コメント

  1. 森 透 より:

    いろいろ教えていただきありがとうございます。ぼくは土木の素人ですが、よくわかりました。
    一つ気になりました。
    New Austrian Tunneling Method(新オーストラリアトンネル工法)
    Austrianは、オーストリアン(ドイツの隣、ウイーンが首都のオーストリア)ではありませんか。貴殿は「オーストラリアン」(南半球のオーストラリア)と記述しています。
    以上です。では、失礼いたします。

    • bomperson より:

      コメントありがとうございます。
      仰る通りで、×オーストラリア→〇オーストリアです。
      記載ミス、失礼いたしました。
      また、ご指摘いただき誠にありがとうございました。

      今後ともよろしくお願い致します。