国内では既に地上に多くの構造物があります。特に都市圏では、地上に大規模な構造物を作るのは、昔と比べると非常に難しくなっています。
そんな中で、これから都市圏を支えていく土木構造物として、地下空間・トンネルが注目されています。
地下鉄を始めとして道路トンネル、上下水道など、トンネルはあらゆる場面で私たちの生活に関わっていますが、普段トンネルを使っていても、その構造について考える機会はあまりないかもしれません。
「トンネル」と一口に言っても、実はいろんな種類、工法があって、とても複雑な条件を考慮して作られています。当然、そのそれぞれに特徴があり、適する地盤条件やコストも異なります。
そこで今回は、土木構造物の1つであるトンネルに少しでも興味を持ってもらいたいと思い、トンネルの種類について基礎的な違いや特徴をまとめました。
「トンネル」の定義
まず、トンネルの定義について説明します。皆さんはトンネルの定義について考えたことはありますか?
一般社団法人 日本トンネル技術協会によると、トンネルの定義について以下のように述べられています。
1970年のOECDトンネル会議での「トンネルとは、計画された位置に所定の断面寸法をもって設けられた地下構造物で、その施工法は問わないが仕上がり断面積が2m2以上のものとする。」との定義が一般的に用いられています。さらに一般社団法人日本トンネル技術協会では、上記定義に加え、地中の管路については、仕上がり断面の直径が0.8m以上をトンネルとして扱い調査研究を実施しています。 なお、鉱山における坑道等は含んでいません。
地下構造物であるという条件に加え、ある程度の大きさの有る構造物について、トンネルと定義されているようです。
トンネルの種類
トンネル標準示方書では、トンネルの種類は3種類に分けられています。
- 山岳トンネル
- 開削トンネル
- シールドトンネル
1. 山岳トンネル
山岳トンネルとは、山岳部に建設されるトンネルの総称です。
山岳トンネルにはいろいろな工法がありまが、ここではよく用いられる、NATM工法について書いていきます。
NATM工法は、New Austrian Tunneling Method(新オーストリアトンネル工法)の略で、「ナトム」と読みます。
NATMでは、山岳部を機械で横向きに掘削し、土砂を排出していきます。
NATMは穴を掘っても地山が崩れてこないような条件の時に選定され、掘削後、コンクリートの吹付がされます。
地山の保持力を利用してトンネルを構築するため、地盤が軟弱で掘削時に崩れてくるような条件だと、補助工法を取り入れなければNATMでのトンネル構築は難しくなります。
その後、ロックボルトをコンクリートから地山に突き刺し、地山の奥の方まで一体化させます。
そして、必要に応じてトンネル本体を構築(鉄筋コンクリートの打設)し、完成です。
下の模式図でイメージしてみてください。
NATMについては以下の記事で詳しく触れています。
2. 開削トンネル
開削トンネルとは、地上部からトンネル部に向けて下へ掘削していき(開削)、穴を掘った後にトンネルを構築し、埋め戻す工法(開削工法)で作られるトンネルです。
真っすぐ地山を掘削するため、地山の崩壊を防ぐための土留め壁や、切梁等の支保工が重要になります。
掘削深度がそれほど大きくない場合は、大規模な地下空間を構築可能であるため、多く用いられます。
ただし、掘削時の地上部の利用ができないため、既設の地下構造物の直下に構築するトンネルには基本的に使用できません。
開削トンネルについてはこちらの記事で詳しくまとめているので、興味のある方は是非ご覧ください!
3. シールドトンネル
シールドトンネルとは、シールドマシンと呼ばれる掘削用の機械を使ってトンネルを掘削する工法です。
まず、シールドマシンが掘進を始めるための「立坑」を構築します。
この立坑は垂直シールドで構築されたり、開削工法で構築されたりします。
その後、立坑から横向きにシールドを発進させ、掘削と土砂の排出、トンネル構造の構築をすべてシールドマシンで行います。
(マシンで全てを行わない方法もありますが、現在マシンを用いてすべて自動で行うのが主流です。)
シールドトンネルは、コンクリートや鉄で製造される「セグメント」と呼ばれるものを円形に組み立てて作られます。
NATMと比べて軟弱な地盤にも適用でき、直上に既設構造物があっても適用可能なのが大きなメリットですが、マシン自体が高価なため、コストが増大する可能性があります。
シールド工法について、もっと知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
まとめ
一口にトンネルと言っても、実はいろいろな種類がありますし、ネットで調べてもたくさんの情報が出てくると思います。
表に出てこなくても、先人たちは大きな労力をかけて、今の社会基盤を作ってきました。
普段からちょっと気にかけていると、何気なく使っている土木構造物の見え方が変わってくるかも!?
コメント
私は、トンネルの先進ボーリングを生業にしている者です。
全てを拝読していませんが、感じたこと3点ほど。
トンネルの分類で、沈埋トンネルは開削トンネルに含まれるものでしょうか。
海(水)を開いてトンネルを構築する、開削の一種と考えればよいでしょうか。
その2、TBMとシールドのそれぞれの施工で遭遇する問題、
シールドは沖積層の浅層を通過するので、詳細な調査が施しやすく、その地層にあったマシンを投入しやすいが、発見しずらい硬い人工構造物(鋼製矢板)にあたりマシンが破損する。TBMは破砕帯に遭遇するとグリップがきかず、埋没する。飛騨トンネルのTBMが有名。
その3、NATMは優れた工法と私も考えています。私はNATMが普及し始めた以降にトンネルの切羽に立ちました。山岳トンネルは坑口部は別にして、深い深度を詳細な調査することは困難です、私は地盤の良否に合わせた掘削・支保を選択できるNATMは、安全で経済的な優れた工法と考えています。経験工学が多い土木な世界で、NATMは理論工学と捉え、私は先進ボーリングで先進地盤の的確な評価を目指しています。日本のもまれ複雑な山岳地盤にTBMの普及はまだまだと思います。ただ、NATMの欠点は地盤の緩みを容認する工法であること、トンネルの水抜き効果で地表の渇水が問題になることが多々あります。あまり語られない問題に“二期線の恐怖”というものがあります。高速道路は1本のトンネルを作り暫定開業、2本目を作って完成となります。1期線が掘れた、2期線も同じように施工した。2期線が大きく変状した、崩落事故が発生したの事例があります。この手の事故は、日本の土木の隠ぺい体質からあまり語られませんが。
全てを読んでいませんが“土木のこれからを考える”大変分かりやすくためになります。
トラックミキサー車の名称は廃止すべきです。頑張ってください。
コメントありがとうございます。
1点目について。
開削トンネルと沈埋トンネルは違うものとして考えるべきだと思います。
似たような思想の基設計をしていたりもしますが、施工方が全然違いますので、違うと考えるのが妥当かと思います。
本記事では代表的な山岳、開削、シールドについて触れましたが、
それ以外にも沈埋、推進、ケーソン等もあるので、足しておいた方がわかりやすいかもしれませんね。
2点目。
地中では何があるかわかりませんから、昔から様々なトラブルがありますね。
切羽から周辺地盤を調査する方法もありますが、まだ確立しているとは言えません。
しっかりと確認できるようにする技術は今後非常に重要かと思います。
最近は、シールドやTBMでいろいろなトラブルに対応できるよう機械が進化してきているようです。
ビット交換を容易にしたり、地山観察をできるようにしたり、などです。
また、TBMやNATMなどの山岳工法は岩盤前提としていますから、砕波帯の存在は非常に厄介です。
地質調査って時間もお金もかかるし、深度が深いと大変ですが、
事業の初期に可能な調査については適切に投資しておきたいですね。
3点目。
NATMは経済性に非常に優れた工法です。
一方で、周辺環境へ影響を与える場合も多いですね。
防水型トンネルとしたり、地山保持装置を付けたりする場合もありますが、
緩みを容認している工法であることは確かです。
影響が小さくできるような対策を取れるよう、事前に地質を把握できるようにするのは非常に重要ですね。
また、トンネルが併設される際のトラブルはよく聞きます。
最初に緩んだ地盤をもう一度掘ることになるので、それを見越した設計、施工両面での安全性に対する工夫、検証が必要です。
隠ぺいされることはやはり多いんですかね?
そうだとすると、うまくいかなかったら隠す、という日本ならではの文化(?)は将来のために無くしていくよう努力が必要です。
むしろ、そういう例をきちんと残していった方が技術の進歩に役立つんですがね~
お読みいただきありがとうございます!励みになります。
幅広い視点からいろんな情報を書いていきたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします!