鉄筋コンクリート構造物は、時間がたって鉄筋腐食が発生してしまっているものや、中には建設後それほど時間がたっていないのに腐食が問題となってしまっている構造物がたくさんあります。
鉄は放っておけば錆びる=腐食するものなのですが、コンクリートに守られているはずの鉄筋がなぜ腐食するのでしょうか?そしてそれは何が原因で、どんな反応が起きているのでしょうか?
今回は、そんな鉄筋腐食の原因やメカニズムについて説明していきたいと思います。
不動態皮膜の消失
コンクリート中の鉄筋は、普段は不動態皮膜と呼ばれる緻密な酸化皮膜に覆われており、この影響で酸化反応=腐食の発生が抑えられています。
しかし、何らかの原因で不動態皮膜が消失すると、鉄筋腐食の発生が促進されてしまいます。
不動態皮膜はコンクリートのアルカリ性によって生成され、これがあることによって内部の鉄筋の酸化が発生しにくくなります。
不動態皮膜が消失するのは、ひび割れ等によって水や空気が過度に供給されたとき、塩化物イオン濃度が高くなったとき(塩害)、コンクリートのアルカリ性が弱まったとき(中性化)などです。
不動態皮膜の物性などに関する詳細は、以下の記事をご覧ください。
鉄筋腐食の化学反応
鉄筋を覆っている不動態皮膜が破壊されることによって、鉄筋腐食が発生する環境が出来上がってしまいます。
鉄筋腐食は、鉄筋を陽極とした化学反応が発生していることを意味します。
鉄筋腐食が生じる際の化学反応式や、鉄筋腐食の化学式など、鉄筋腐食が化学的にはどのように発生していくか考えていきましょう。
アノード反応とカソード反応
鉄筋腐食は以下のような化学反応式で表現できます。鉄筋がイオン化して電子を放出する側(陰極部)反応のことをアノード反応(酸化反応)、逆に、電子を提供される側(陽極部)の反応をカソード反応(還元反応)と呼びます。
アノード反応:Fe → Fe2+ + 2 e−
カソード反応:H2O + 1/2 O2 + 2e− → 2 OH−
水の存在が大前提となるのですが、実は密実に見えるコンクリート内部にも、微細な空間はいくつも存在しています。
その中に水が存在しているのです。その水のことを細孔溶液と呼びます。
水分はコンクリート表面から浸透することもありますし、ひび割れ等があれば容易に水は浸入します。
腐食生成物の反応式
鉄筋腐食が生じるとき、どのような化学反応式で表現できるのでしょうか?また、腐食生成物自体の化学式はどんなものなのでしょうか?
まず、上述したアノード反応とカソード反応が組み合わさって水酸化第一鉄 Fe(OH)2(水酸化(Ⅱ))が生成します。以下のような化学反応式となります。
2Fe + O2 + 2H2O → 2Fe2+ + 4OH– → 2Fe(OH)2
この水酸化鉄 Fe(OH)2は、水や酸素の存在により、水酸化第二鉄 Fe(OH)3(=水酸化鉄(Ⅲ))、オキシ水酸化鉄 FeOOH、酸化第一鉄 FeO、三酸化二鉄 Fe2O3(赤錆)、四酸化三鉄 Fe3O4(黒錆)などの形となります。
鉄の酸化が進行しきった状態は三酸化二鉄 Fe2O3の状態(正確にはα-Fe2O3、ヘマタイト)ですが、酸化不十分だと四酸化三鉄 Fe3O4になりますし、実際の鉄筋腐食の中にはその過程で生じる水酸化第二鉄 Fe(OH)3、オキシ水酸化鉄 FeOOH、酸化第一鉄 FeOが混合して存在していると考えられます。
ちなみに、どの生成物も「Fe」「H2O」「O2」で構成されていることがわかりますね。このことからも、鉄筋腐食の原因となるのが「水」と「酸素」であることがわかると思います。
これらは、コンクリートのpHや溶存酸素量などによっても変わってきますが、これらの生成物が鉄筋腐食の成分であるということは覚えておきましょう。
腐食電流
鉄筋表面で化学反応が起こるときにはアノード部で電子の放出、カソード部で電子の受取が発生します。つまり、電子の流れができるわけですね。
電子の流れができるということは、そこには電流が流れてることになります。その電流を腐食電流と呼びます。
ご存知の通り、電子の流れと電流が流れるとされる向きは逆なので、注意してください。(電子はアノード部→カソード部なので、電流はカソード部→アノード部に流れます。)
腐食電流は、電子を流す「回路」ができると発生します。
この「回路」には2つの種類があります。
それは「マクロセル腐食」と「ミクロセル腐食」と呼ばれ、実構造物で問題となるのは「マクロセル腐食」の方です。
両者の違いについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
腐食ひび割れの発生
鉄筋腐食が発生し、進行していくと、コンクリート表面にひび割れが発生します。これを腐食ひび割れと呼びます。
腐食が発生すると腐食ひび割れが入ってしまうのは、腐食生成物の体積が鉄筋よりも大きいためです。
鉄筋の健全部分と比べて鉄筋腐食が発生している部分は約2.5倍の体積であると言われています。体積が膨張すると、かぶり部分のコンクリートが押し出されるような力(膨脹圧)により、かぶりコンクリートにひび割れが発生してしまいます。
ちなみに、鉄筋腐食は多孔質であるため、体積が大きくなっても更なる腐食を抑制することはできません。そのため、腐食ひび割れにより劣化因子(水や酸素、塩分など)が侵入しやすくなると、腐食は更に進行しやすくなります。
鉄筋腐食の原因
鉄筋腐食の原因は「水」と「酸素」であると先に述べました。
では、これらがあれば鉄筋腐食はどこでも同じように進むかというと、当然そんなことはありません。
ひび割れがどの程度生じているか、水分がどの程度供給されているか、他の化学物質が侵入してきていないか・・・など、様々な要因が組み合わさって腐食発生の有無や度合いが決まってきます。
ここでは、鉄筋腐食が発生する「塩害」と「中性化」という鉄筋コンクリートの劣化機構を代表例として、鉄筋腐食メカニズムの観点から説明していきましょう。
塩害
塩害は、塩化物イオンがコンクリート中に浸入し、鉄筋位置まで到達することによって鉄筋腐食が生じる鉄筋コンクリートの劣化機構の1つです。
塩害について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
塩化物イオンCl–は、元々コンクリート中に含まれていたり、海水に起因する塩分が飛来したり、道路などに散布される凍結防止剤が原因だったり、と、色々な原因でコンクリート中に入り、細孔溶液内に溶け込みます。
塩化物イオンが一定の濃度に達すると鉄筋の不動態皮膜を破壊するため、上述したように鉄筋腐食が発生してしまいます。
中性化
中性化は、二酸化炭素が原因で、鉄筋位置におけるpHがアルカリ性から中性に近付くことによって、不動態皮膜が消失し、鉄筋腐食が生じる現象です。
詳しくは、以下の記事にまとめています。
二酸化炭素が原因となるので、空気に触れる鉄筋コンクリート全てで発生する可能性があるのですが、乾燥した環境では発生しやすいという特徴もあります。
コンクリートの細孔溶液のpHが11程度以下になると不動態皮膜は消失し、鉄筋腐食が発生します。
まとめ
コンクリート中の鉄筋腐食の発生原因やメカニズムについて説明してきました。
- 鉄筋は普段は不動態皮膜により腐食から守られている
- 鉄筋腐食の原因は水と酸素
- 腐食生成物の成分はFe(OH)2、Fe(OH)3、FeOOH、FeO、Fe2O3、Fe3O4
- 腐食発生時は腐食電流が発生している
- 鉄筋腐食が生じると膨脹圧により腐食ひび割れが発生する
今後は社会インフラとして用いられている大量のコンクリート構造物を維持管理していく必要があります。
鉄筋腐食を正しく理解して、対策や維持管理計画に役立てていきましょう。