コンクリートの塩害、皆さんはご存知ですか?
農業でも、農作物が海水にやられてしまうことを塩害と呼びますが、コンクリート分野にも塩害というものがあります。
今回は、その塩害の概要やメカニズム、対策についてご覧いただきたいと思います。
原因
コンクリート構造物に塩害が引き起こされる原因は、その名の通り塩分です。正確にいうと、塩化物イオンが原因です。
原因となる塩分は、内在塩分と外来塩分に大別されます。
内在塩分とは、細骨材に海砂をきちんと洗わずに用いることにより、コンクリートの材料に初めから塩化物イオンが含まれている場合の塩分のことを言います。
外来塩分とは、建設後に外部環境により供給された塩分のことです。
海岸や海水飛沫帯などで海水に由来する塩分が原因となる場合もあれば、道路橋で冬場に凍結防止剤として散布される塩分(塩化ナトリウム=食塩)が原因となる場合もあります。
メカニズム
「コンクリートの塩害」と言いますが、実はコンクリートは塩化物イオンが侵入したところで大きな影響はありません。
最初にダメージを受けるのは、コンクリート内にある鋼材、鉄筋です。
コンクリート表面に付着し、浸透した塩化物イオンが鉄筋位置まで達すると、鉄筋を覆っている不動態皮膜が消失し、周囲の水や空気によって鉄筋腐食が生じてしまいます。
鉄筋腐食が生じると、その部分は膨張するため、かぶりコンクリートが押し出されるような形でひび割れや剥落が生じます。
ここまで来ると、ひび割れや剥落部分から水と一緒に塩分が更に浸入するため、鉄筋腐食が加速していってしまいます。
また、コンクリート片の剥落は第三者被害を引き起こす可能性がある上、断面欠損による構造上の問題にも繋がり得ます。
この段階まで構造物を放置しておくことは非常に危険であると言えるでしょう。
特徴
塩害が発生すると、まず、鉄筋腐食に起因する鉄筋に沿ったひび割れがコンクリート表面に発生します。これは中性化と同じです。
その後、腐食が進行するにしたがって、剥離・剥落につながっていきます。
塩害の特徴は、発生する場所がある程度特定されることです。
内在塩分が最初から含まれている場合は別ですが、海岸にある構造物や、寒冷地で凍結防止剤を頻繁に散布する箇所などは塩害が発生しやすいと考えられます。
そのため、建設段階や補修・補強時に、塩害による劣化リスクを考慮した対策を施すことが重要です。
試験方法
フレッシュコンクリート
使用する骨材に塩分が含まれていると、完成したコンクリート構造物に塩害が生じてしまいます。
そのため、フレッシュコンクリート時に塩化物イオン濃度に問題ないかどうかを確かめるための試験がJIS A 1144で定められており、その濃度は0.3kg/m3以下と規定されています。
試験方法は以下の3つです。
・チオシアン酸水銀(Ⅱ)吸光光度法
・硝酸銀滴定法
・電位差滴定法
いずれの試験方法も、フレッシュコンクリートのろ液に対して試験を行い、塩化物イオン濃度を計測します。
硬化コンクリート
既に完成してしばらくたっている構造物に対しても、塩化物イオン濃度を計測する手法が確立されています。
試験方法はJIS A 1154に規定されており、調査を行うコンクリートの一部を粉砕した微粉末を用い、それを煮沸させて塩化物イオンを抽出します。
コンクリート内部の塩化物イオン濃度まで計測する際は、コアを抜いてかぶり深さ毎に計測を行うので、微破壊が必要な試験となります。
抑制対策
塩害は、塩分が供給されやすい環境で引き起こされやすいため、海岸や海水飛沫帯、凍結防止剤の散布が予想される橋梁等では、予め塩害を抑制する対策を施しておくことが重要です。
抑制対策は、鉄筋位置まで塩化物イオンを侵入させないという考え方と、塩化物イオンの影響で鉄筋を腐食させないという考え方の2種類があります。
今回は、コンクリートの配合、形状、表面保護の3つに分けて考えてみましょう。
コンクリートの配合
塩害を予め抑制するためには、塩化物イオンの侵入をできる限り抑えるため、コンクリートをち密に仕上げることが重要です。そのために、できる限り水セメント比(W/C)を小さくする等の工夫が考えられます。
また、高炉セメントB種やフライアッシュセメントなどの混合セメントを用いることも塩害に対する対策として有効です。
部材の形状
塩害は、塩化物イオンが鉄筋位置に達してから劣化が始まるため、かぶり厚さを大きくすることも抑制対策として有効です。
また、水が溜まりやすく塩化物イオンが滞留しやすい形状を避けるべきでしょう。
例えば、下図のようにI型断面の桁では下フランジ上部に塩化物イオンが蓄積しやすいのに対し、箱型断面とすれば比較的塩化物イオンの蓄積を抑制することができます。
表面保護
コンクリート表面を保護することによって塩化物イオンや腐食の原因となる酸素や水の侵入を抑える対策も考えられます。
既設の構造物に対して予防保全の位置付けで行われることもあります。
表面保護は主に2種類あり、含浸材を用いる場合と表面被覆を行う場合があります。含浸材は比較的安価で、コンクリート表面を目視で確認しやすいというメリットがあります。表面被覆は、遮塩性、遮水性に優れていますが、コンクリート表面の状態を目視で確認できないというデメリットもあります。
補修
実際に構造物に塩害とみられる劣化が発生してしまった場合はどのような補修を行うのでしょうか?
劣化の進行度によって様々ですが、塩害劣化が目視点検により確認できる段階である加速期~劣化期の補修は以下のようなものがあります。
ひび割れ注入
腐食ひび割れに対して、更なる劣化因子の侵入を防ぐために注入を行うものです。樹脂系の材料やウレタン系の材料がよく用いられます。
断面修復
断面欠損が激しい場合、周辺のコンクリートを取り除き、断面修復材で埋めてしまうやり方です。
比較的大規模な補修になりますし、周囲のコンクリートが塩化物イオンを含んでいる場合は境界面での鉄筋腐食を加速させてしまう可能性があるので、注意が必要です。
電気防食工法
電気防食工法とは、コンクリート表面に設置した用電極から鉄筋に向けて電流を流すことにより鉄筋腐食の進行を防止する工法です。
鉄筋腐食が生じているとき、鉄筋腐食部と健全部には電位差が生じており、腐食部(電位低)から健全部(電位高)に電子が流れています。
すなわち、健全部⇒腐食部に電流が流れているということになります(電子の動く向きと電流の向きが逆であることに注意!)。
電気防食工法では、鉄筋側に電子を供給し、腐食部と健全部の電位差をなくすことにより、この電流の発生(=腐食の発生)を抑えることができます。
電気化学的脱塩工法
電気化学的脱塩工法とは、コンクリート表面に設置した陽極から電流を流すことにより、鉄筋付近にある塩化物イオン(⊖)をコンクリート表面側に移動させ、コンクリート表面のアルカリ性溶液と反応させることにより塩分を取り除く工法です。
電気防食工法とちょっと雰囲気が似ていますが、工法の目的やアルカリ性溶液を用いるところなど、ちょっと違いますね。
その他のポイント
塩化物イオン濃度
覚えておきたい塩化物イオン濃度として、鉄筋腐食が発生する際の目安となる鉄筋位置における鉄筋腐食発生限界塩化物イオン濃度(Clim)があります。
一般的にClim=1.2kg/m3が目安として用いらることが多いのですが、コンクリート標準指標書では水セメント比を用いた以下の式により定めてよいことになっています。
Clim=-3.0×(W/C)+3.4
(普通ポルトランドセメントの場合)
塩化物イオンの拡散係数
塩化物イオンの拡散係数(D)とは、コンクリートがどれくらいの時間でどの程度の深さまで拡散していくかを示す係数のことを言います。
これも、コンクリート標準指標書で以下の式で与えられています。
log10D=3.0(W/C)-1.8
(普通ポルトランドセメントの場合)
ですが、実際はコンクリート表面から塩化物イオンが徐々に浸透する場合と、ひび割れなどから直接的に内部に入ってから浸透する場合などがあるので、この式でいつも正確に塩化物イオンの浸透深さを推定できると思わない方がいいでしょう。
まとめ
塩害について説明してきました。
日本は海に囲まれた国でもありますし、塩害は様々なところで問題になっています。
塩害が生じやすい構造物に対しては、本記事で書いたような対策を行う必要がありますし、技術者としては、適切な処置を行うためにどのようなメカニズムで塩害が発生しているかも理解しておく必要があります。
致命的な劣化となる前に対策ができるよう、本記事がお役に立てば幸いです。