凍害と聞くと寒さによる農作物への被害を思い浮かべるかもしれませんが、コンクリートの世界にも「凍害」は存在します。
日本の温暖な気候にお住いの人にとってはあまりなじみがないと思いますが、東北や北海道を始めとする寒冷地や、山間部などでは発生し得る劣化現象です。
本記事ではそんなコンクリートの凍害について説明します。
原因とメカニズム
コンクリートの凍害の原因は、水の凍結・融解の繰り返しです。
寒冷な地域では、昼夜の温度差で水が凍ったり溶けたりを繰り返します。コンクリート中の細孔溶液も例外ではなく、氷点下を下回れば凍りますし、上回れば溶けます。
皆さんご存知のように、水は固体(つまり氷)の状態の方が液体(水)の状態よりも体積が大きいという特徴があります。水から氷になるときに約9%程度体積膨脹が生じると言われています。
そのため、細孔溶液が凍結すると、体積が広がることによってコンクリート内部の微細な空間が押し広げられることになります。
そして、今度は氷が解けて水になった時に広がった空間の先端に溶液は移動し、気温が下がればそこでまた凍結し、空間を広げます。
凍害とは、その繰り返しによってコンクリートがボロボロと空隙だらけになってしまう劣化現象のことを指します。
特徴
凍害を受けたコンクリート構造物は、コンクリート表面から徐々に劣化が生じていきます。
凍害劣化が進行すると、微細ひび割れやスケーリング、ポップアウトにより劣化が顕在化するという特徴があります。
これらのコンクリートへのダメージは、コンクリート品質の良否によって大きく左右されます。
コンクリートの緻密性がイマイチだったり、エントレインドエアを十分連行できていなければ微細ひび割れやスケーリングは起こりやすくなります。また、骨材の品質が悪く、吸水率が大きければポップアウトが生じやすくもなります。
AE剤を用いないコンクリートを使用していた時代(1978年以前)は、エントレインドエアが適切に連行できない場合もあり、構造物の耐力にも影響する恐れがありましたが、AEコンクリートが一般的になってからは耐力に影響するほどひどい損傷は少ないと言われています。
ただし、美観には影響しますし、剥離・剥落等により第3者被害を引き起こす可能性もあるので注意が必要です。
環境条件としては、やはり水が影響してくるので、水分の供給が多い方が凍害劣化しやすくなります。また、温度が低くなりやすい場合や日射の影響などによって凍結融解の繰り返し回数が多い場合は劣化の進行が早いため、十分に対策する必要があるでしょう。
抑制対策
コンクリート材料に対する凍害の抑制対策は、コンクリートを緻密にすることと、品質の良い骨材を用いることの2点です。
コンクリートを緻密にするためには、減水剤等の混和剤を用いて単位水量を小さくしたり、打設の際の締固め、養生をしっかりと行うなど、品質の高いコンクリートを作る必要があります。
骨材の品質については、吸水率の小さい骨材を用いることが重要です。
また、環境条件に対する抑制対策としては、水の供給を減らすために、水たまりができないように適切な排水勾配を保ったり、表面防水処理を行う等の工夫が考えられます。
補修
凍害が軽微な場合は表面被覆や表面含浸等により水分の進入を防ぎ、これ以上の劣化を抑制します。
ひび割れやスケーリングが多く出ているようだったら、ひび割れ注入や断面修復を行う必要があります。
ひび割れや剥落の通常の補修と変わりませんが、水分とひび割れの存在がある場合には鉄筋腐食も既に生じている場合があるので、それも加味した診断、補修が必要になってきます。
まとめ
凍害について解説してきました。
- 凍害は水の凍結・融解の繰り返しにより生じる
- 症状は、微細ひび割れやスケーリング、ポップアウト
- コンクリートを緻密にすることと、吸水率の小さい骨材を用いることが抑制対策になる
- 補修の際は水の供給を止めることが効果的である
限られた地域でしか発生しない劣化現象ですが、いつその現場に行くかわかりません。しっかりと症状や対策等を覚えておきましょう。